頭文字D
このまま醒めないで
高橋涼介と付き合い出したのは大学三年の時だった。
お互い無理やり連れられて行った合コンで知り合った。
前日というか、合コン当日の明け方まで論文をやっていたから、
1杯のサワーで酔っぱらってしまった。
心配してくれた高橋君が介抱してくれて、ラブホに入った。
一眠りして目が覚めて・・・まあ、流れでそうなった。
精根尽きるまで抱き合って目が覚めたら「彼女」の位置におさまった。
頻繁ではないけど、会う度に好きになる。
でも私は彼の一番にはなれない。
勉強があり、走り屋のリーダーとしての役割が私の上に存在している。
淋しいと思う事はあるけど、平凡な私からすれば不相応な彼氏だ。
不平不満を告げた事は無い。
大学を卒業して二年、彼より先に社会人になった私。
親も周りも「結婚」と言う言葉が現実味を帯びている。
けれど高橋君との結婚は考えていない。
恋人でいる今でさえ、夢心地だから。
そろそろ現実と向き合わないといけないのかもしれない。
親からも結婚の事を聞かれる。
こういう時は親と同居しているのが嫌になる。
仕事が終わり、ロッカールームへ向かう。
取り出した鞄から携帯取り出すと、メールの着信があった。
『今日の約束は延期して欲しい』
何て返事を書こうか迷っていた。
その時、同僚から夕飯のお誘いがタイミング良く来た。
私は2つ返事でOKし、彼へその旨伝える。
私にも用事が入れば、彼の罪悪感も薄れるだろう。
『遅くなるなら連絡してくれ』
『ご飯食べるだけだから大丈夫』と返した。
そして化粧を軽くなおし、友人と会社を後にする。
「へえ、ちゃんて言うんだ?可愛いね」
連れていかれたレストラン。
それは合コン会場だった。
彼氏がいる事を話した事が無いから気をきかせてくれたのだろう。
適当に話を合わせ、出てくる料理を食べていた。
苦痛の時間がやっと終わる。
割り勘で料金を支払い、店を出た。
「ねえ、あの人ちょーかっこよくない?」
友人が指を指した方に視線を向ける。
そこにはスラっとした男性が、白い車に腕を組んで凭れていた。
「え?」
彼と視線が合ったと思ったら、こちらに歩き出した。
となりで友達がキャーキャー言ってるけど、私の頭は「なんで?」しか無かった。
私の隣に立ち、腕を引かれる。
「悪いけどは連れて行かせて貰うよ。用事があるから」
「え?は、はい!」
「行くぞ」
そして腕を引かれたまま車へ行き、助手席に座らされる。
ほどなくして車が動き出した。
どこに向かっているのか分からなかったけど、
それ以前に「何で?」しか浮かばない私の頭。
しばらくすると車が止まる。
うちから近い所にある公園の脇だった。
エンジンが切られ、高橋君がハンドルに腕と頭を凭れされた。
「何で・・・」
「え?」
小さい声で聞こえなくて聞き返すと、彼が顔を上げて私を見た。
「何で嘘をついたんだ?」
「嘘なんかじゃ」
「そんなに俺と付き合ってるのは嫌なのか?」
「え?」
「お前が別れたいと言っても、別れるつもりは無い」
そして腕を引かれキスされる。
誤解を解こうと思って彼の胸を押すけど、首の後ろを固定されて叶わない。
「んっ・・・・・」
舌が入り込み、私の舌を絡め取られ吸い上げられる。
快楽から力が抜けてゆく。
それを見計らって唇が離れて行き、私の首元に移動する。
「ま、待って!お願い!」
「言い訳なら聞きたく無いぜ」
そしてチクリとした痛みが。
「ちゃんと話をさせて」
溜息と共に彼が顔を上げる。
「・・・・・・遊びじゃないの?」
「何がだ?」
「私と付き合ってるの」
「・・・・・・そういう事か」
「な、何が?」
「明日の予定は?」
「ゴロゴロとしてるつもり」
「9時半に迎えに行く」
「え?」
「覚悟しておけよ」
そして車が再び動きだし、家まで送ってくれた。
と思ったら一緒に降りて、出て来た母親に挨拶を。
「さんとお付き合いしている高橋涼介です。
今日は夜も遅いので、日を改めて挨拶に伺います」と。
そして予告通りに翌日迎えに来た彼と一緒にエンゲージリングを買って貰った。
それから走り屋の打ち合わせや峠に一緒に行く事が増え、
うちの両親にも「卒業したら結婚させてください」と挨拶。
本当に目まぐるしく話が進んでしまった。
何故あの合コン会場の傍にいたかという疑問も、
走り屋仲間の連絡網で伝わったとか。
今、とても幸せです。
2015/9/18