プレイボール
オールスターが終わり、彼女とはちょこちょこと連絡を取り合う様になった。
俺はシーズン中だし、彼女も仕事の都合があって会って話すまでにはいたっていない。
それが叶ったのは、暦の上では秋になってからだった。
「んじゃ、かんぱーい」「おつかれさまー」
ジョッキに入ったビールを合わせ、勢いよくジョッキを傾ける。
冷えたアルコールが喉を潤して胃に流れ込むのが良く分かる。
「それじゃあ、正肉と、皮と~」
メニュー片手に焼き鳥を注文していく彼女。
好き嫌い無いから好きに頼んで良いよとは言ったけど……。
有名女優と焼き鳥……ミスマッチ過ぎるのに妙にしっくりくるのが面白い。
やっと会う時間が重なり「どこか行きたい店ある?」と聞けば「御幸さんが普段行く店で」と返された。
「俺が行く場所なんて洒落てないけど」
『洒落た店って肩凝るので。兄とだって居酒屋ばっかだし』
という事で決まった焼き鳥屋デート。
しかも駅前で待ち合わせとか、学生時代にだってした事無いな。
今日は急に仕事がオフになったとかで、前に会った時より化粧が薄くて雰囲気違うし。
女って本当に化粧1つで変わるんだなと実感した。
「……さん、御幸さーん。注文しすぎました?」
「ん?いや、腹減ってるし」
「あ、もしかしてドン引きしちゃいましたか!?昨日から緊張しちゃって…朝も昼もあまり食べれなくて」
「仕事?」
「あー……いえ、その」
「ああ、俺と会う事?」
「うっ……そうです」
普通男と会う時って、逆に食べないんじゃねぇの?
それどころか彼女は大きく口を開けて頬張り「おいしぃ~」を連呼していた。
「やっぱりプロが作るとお肉ってフワフワだな~」
「あったりめぇよ!素人さんにこの味出されたら店は終いだからな」
「あはは、ですよね」
なんて大将と話してるし。
その合間合間にあれこれと話をしていく。
「さんはいつまで野球やってたの?」
「で良いですよ。兄と紛らわしいし、同じ年なんで。中学に上がるまではやってましたよ」
「へぇ、そうなんだ」
「女子部は無かったし、マネージャーも無かったし、野球はここで終わりでしたね」
「そんなに好きだったんだ。ソフトは?」
「私の手、ちっちゃいんですよ。ほら」
俺に向けて両手を広げて見せる。
確かに綺麗で長い指だけど小ぶりだ。
それから高校生の時にスカウトされ、女優業を始めたらしい。
店を出るまで、お互いの話を色々とした。
飲酒をしている以上、車の運転は出来ない。
まだ電車もあるし、彼女の家まで送る事になった。
最寄りの駅から彼女の家までの道のりを歩いている時、気になってた事を聞いてみた。
「あ、そういえばは俺の事知ってた?」
「えーと……なんで?」
「夏に初めて会った時にさんが意味深な事言ってたから」
「………高校の時」
「高校?」
「御幸さん、雑誌に載ったじゃないですか」
「雑誌?……ああ、そういえばそんな事もあったっけ」
「あの雑誌が家のリビングに会って、読んだんです」
「雑誌まで読んでたんだ」
そこまで話したら彼女の足が止まり、俯いてしまった。
「―――――んです」
「え?」
「あの雑誌で「素敵だな」って思って、試合も観に行きました」
「え?マジで?」
「……はい。さすがに甲子園までは行けなかったけど」
「………」
「―――好き、でした」
「過去形?」
「え?」
「あー……フェアじゃねぇな」
俺は彼女の前に立つ。
すると彼女が顔を上げた。
だから彼女の瞳をを真っすぐ見る。
「俺と付き合わない?」
「え?」
「たった1回だけのバッテリーと1回食事しただけだけど、の事は好きだなって思ったし。もっと知りたいと思ったし」
「……え?あ…」
それだけ言って小さな手が彼女の口元を隠したけど、顔が真っ赤なのは隠しきれてない。
その姿も可愛いなと思う。
「だめ?」
「……ダメ…じゃない、です」
「良かった~」
思わず両手を伸ばして彼女を抱き寄せる。
腕の中で小さくなる彼女が本当にかわいい。
「ねえ」
「……はい」
「顔、上げてよ」
「………無理です」
「じゃあ、力づくで」
腕の力を緩めてスペースを作り、彼女の腕を掴んでキスをした。
重ね合わせるだけどのキスをして顔を離すと、ゆっくりとの瞼が開く。
(あ、ヤバイ……)
何がヤバイのか具体的には分からなかったけど、その気持ちを理解する前に再び唇を重ね合わせた。
2019.01.18