ダイヤのA
宵の春
彼氏に浮気されました。
年上の大学生で、去年まで同じ青道高校に通ってた先輩ってヤツ。
こっちがひーこら言って受験勉強してるのにさ!
お前だった去年通った道だろ!!!!って思ったけどAOであっさり決まったんだった。
おかげで今日は何もする気にもなれなくて、学校の傍の土手に寝転んだ。
せっかく受験が終わったのに!!!!
イチャイチャしたかったのに他の女としてるなんてさ!
きっと誰かいたら口から出てるであろう悪口。
「いや、しっかり聞こえてるけど?」
「え?」
声に驚いて目を開けると、眼鏡男子が私を覗き込んでいた。
それは一年の時に好きだった御幸一也だ。
「うわっ!?」
「こんなトコで寝てると風邪引くぜ?」
「ん?まあ、もういっかな」
「受験終わったのか」
「人生も終わった」
「はえぇよ」
「というか、御幸君は何してんの?」
「覚えてたんだ」
「そりゃあ・・・」
惚れてたし、と心の中で続ける。
良く見ると彼の手にはバットが握られていた。
「ああ、素振り?プロ入りするんだっけ?」
「良く知ってるじゃん」
「ドラフトん時、学校中大騒ぎだったじゃん」
「はっはっは。まあな。は?」
「……っ!?名前知ってたんだ」
「同じクラスだったじゃん」
「いや、喋った事なかったし」
「それ言ったらだって俺の苗字知ってるじゃん」
「いや、まあ、そうだけどさ・・・っ!?」
御幸が隣に腰を下ろした。
と言う事はまだ会話が続くのだろうか?
「それでは進学?」
「え?ああ、うん」
「英語関係?」
「え?何で英語?」
「1年の時発音良かったじゃん」
「え?そう?」
「結構印象的だったんだよな」
「良く覚えてるね」
「気になってたからな」
「へぇ・・・・・・」
「そこ、スルーかよ」
「え?」
「『気になってた』」
「発音がでしょ?」
「が」
「……え?」
「だからさ、彼氏と別れたなら俺と付き合ってよ」
「は?えーーー!?ちょ、待って!」
「待たない」
隣の影が動いたと思ったら唇に温もりが。
驚いて離れようとしたけど首の後ろに手があって出来ない。
「んっ・・・・!?」
どのくらいの時間が経ったのか分からないけど、唇が離れたのを置追う様に目を開けたら御幸君の伏し目がちな目が眼鏡越しに色っぽく見えた。
「ず、ずるい・・・」
「はっはっは。弱ってる所をつけこんでるしな。その自覚はあるよ。でも待ってても手に入らないんだから動くしかねぇし?」
「そ、そういう事でも無い様な・・・」
「好きだよ」
「―――っ!!!?やっぱりずるい」
「知ってる。んじゃ、送ってくよ。その間に連絡先教えて」
手を引かれて立ち上がり、土手を並んで駅まで歩く。
途中で彼のポケットから出て来たガラケーに、思わず笑ってしまう。
そしてこの日から、メールアプリが多用されるようになった。
2018/03/20