ダイヤのA

御幸一也

ライバル出現水曜日

一月に一度、来るか来ないかの高校生に職場でナンパされました。

その彼が今、私のベッドで寝ています。

うつ伏せで。

真っ裸で。

鍛えられた二の腕、背筋と筋肉質なお尻が見えます。

その体に私の体は蹂躙されてしまいます。

普段は眼鏡をしているけど、今は付けてません。

大人びた彼も、寝ている時は年相応の男の子だ。

私は寝ているベッドにそっと腰掛けて、彼の髪に指を入れる。

「髪・・・・・・伸びてるよ」

「ん・・・・・さん?」

「そろそろ戻って練習しないと。その前にシャワー浴びて髪、切ってあげる」

「あー・・・うん」

のそっと起き上がって鍛えられた裸体を晒しながらバスルームに向かう彼。

その間に私は商売道具であるハサミセットを取りに行く。

私は所謂美容師で、彼、御幸一也はお客さんだった。

初めて会ったのは彼が高校一年生の時。

たまたまカットに来た彼の担当が私で、その後も担当として接していた。

彼が二年に上がる前、お会計の時に小さなメモを渡された。

そこにはメアドと電話番号が書かれていて、そのメモを今でも手帳に挟んでいる。

最初は相手にしなかったのだが、彼が三年になっても続いた。

そして夏休みが終わる時に渡されたメモに『もうすぐ来られなくなります』と書かれていた。

その言葉が私を動かしたのは確かだ。

強豪と呼ばれる青道高校の野球部で主将で4番。

同級生の女の子からしたら理想の男の子だろう。

そんな女の子の理想が年の離れた女を抱いていると知ったらショックだろうな。

さーん」

浴室から声が聞こえ、彼の所に行き髪をカットした。



季節が秋から冬になろうとしている夜は、閉店間際になると真っ暗になる。

最後の客が帰って自分の帰り支度を済ませる。

夏の大会が終わって部活を引退した一也は、私の休みの日に過ごすので一緒にいる時間が増えた。

が、昨日の美容院の定休日は予定があったらしく、明日の休みは一也が来る。

駅前のスーパーで買い物をしようと思いながら駅に向かう。

献立を考えていたら「さん」と一也の声が名前を呼んだ。

顔を上げると制服姿の彼がいた。

「一也。なにし・・・」

私の言葉が止まったのは、彼が一人では無かったから。

「今帰り?俺もトレーニングセンター行った帰りなんだよね」

彼が話をしているのは分かるけど、後ろの女の子が気になって仕方がない。

「御幸くん」

背後の女の子が彼を呼ぶ。

すると一也は振り向いて「ああ、悪い。それじゃあな」と手を振った。

「同級生?」

「ん?ああ、そう。進路指導でこの時間になったんだって」

「ああ、そうんな時期だね」

「それより明日、行くの覚えてるよね?昨日の定休日も行きたかったのに」

「それは仕方ないよ。明日待ってるから。そろそろ寮の門限じゃない?」

「あ、ヤバっ!じゃあ、明日行くから」

手を振って走り去る彼を、手を振り返しながら見送る。

角を曲がって見えなくなるまで、彼の背中を見ていた。

さっきの女の子は彼と同じ制服を着ていた。

それが眩しくて仕方が無い。

そして最後に私を睨む様にして立ち去った。

きっとあの子は一也が好きなんだろう。

「それでも彼が選んだのは私なんだ」

この呪文は、いつまで有効なのだろうか。

あの大きな手を簡単に手放せない程、私の心は彼に向かっていた。


2017/10/20