ダイヤのA
St Valentine's Day 2017
中学三年で進路を決める時、憧れの青道高校を第一志望にした。
受験の時に落としたペンを拾い上げてくれた人が恰好良くて印象的だった。
彼と学園生活を過ごしたい!
その一心で頑張って合格出来た。
けれど彼と同じクラスになる事も無く、委員会が被る事も無く、三年間が終わろうとしている。
野球部に所属する彼を御幸一也と言う。
放課後に練習を見に行ったが、男女年齢問わずファンがいる。
年末には彼のプロ入りの為のドラフトなんちゃらがあって大騒ぎだった。
不参加だった卒業旅行でお土産を買って渡そうとしたけど、同じ考えの女の子がいっぱいで何もできなかった。
甲子園出場した時も学校の手配した深夜バスで応援に行った。
負けた時は帰りのバスで大泣きをして周りを心配させたりもしたっけ。
バレンタインも準備はしたけど、結局私の胃袋におさまったし。
けれど最後の今年だけは!絶対に渡す!!
意気込んで来たまでは良かったが、見かける度に彼の周りには女の子がいた。
放課後にもう一度行ってみよう。
それでダメなら、きっと彼と私には縁が無いのだと諦めよう。
そしてそれは現実のものとなる。
「はぁ・・・・・・」
期待したワケじゃない。
ただ渡したかっただけなのに。
逆に渡したいだけなんて軽い想いでいたからなのかな。
机に伏せって涙を隠す。
「バイバイ、青春・・・」
昨日緊張で眠れなかったのも相まって、机の上で眠ってしまった。
「ゴンっ」
机に頭をぶつけて痛みで目が覚める。
重たい瞼を一生懸命開くと、薄暗くなった外が見えた。
「嘘っ!?」
勢い良く立ち上がると、何かが落ちた音がした。
足元を見れば自分の物では無いコートがあった。
「こんな所で寝てたら風邪ひくぞ」
後ろを振り返れば隣の席に御幸君が座っていた。
「え?」
「あん時もこうして座ってたよな」
「・・・・・・覚えてたの?」
「まあな。クラスも一緒にならなかったし」
「あの時は、ありがとう」
「俺もあの時緊張しててさ。あれのお蔭で助かったし」
すると彼が体の向きを変え、私の方を見た。
「・・・・・え?」
「それ、誰かにあげるつもりなの?」
彼が指差したのは机の横に下げた渡せなかったチョコが入っている袋。
「そのつもりだったけど・・・」
「んじゃ、俺が貰って良い?」
彼が袋に手を伸ばそうとしたので、慌ててその手を掴んだ。
「あ、あのね!」
座ったままの彼を見下ろす。
多分これが本当に最後のチャンスなんだ。
「このチョコ、御幸君に渡すつもりだったの」
「え?」
「あの入試の日、ペンを拾って貰った時から・・・好き、です」
その瞬間、体が揺れた。
原因は座ったままの御幸君が私を抱きしめたから。
「ちょっ!?」
大きくは無い胸の辺りに彼の顔があるのだ。
物凄く恥ずかしい!!
彼の肩を押しても動かないし・・・
すると、やっと彼が腕はそのままで体を離してくれた。
私の腰に腕を回したまま立ち上がる。
「受験の日、一目惚れだったんだよね」
「え?」
「駅で見かけて良いな~と思ってたら隣の席で驚いた」
「・・・・・・」
御幸君はその後も言葉を続ける。
「入学式で見かけたけど話すきっかけねえし、違うクラスだし。
もしかしたら忘れてるかもしんねーじゃん?
話しかけようと思った事もあったけど、俺は青道に野球の為に来たし。
だからもし告白してOKだとしても付き合ってる余裕ねえし。
引退してもドラフトがあったりの受験があったりでさ。
チョコも買いに行こうか迷ったけど、さすがに女の子だらけの店に入る勇気なかったし。
そうしたらチョコの袋持って歩いてるの見ちゃったし。
で、教室来たら可愛い寝顔で寝てるし」
「え?」
「俺はさんが好きだって事」
「・・・・・・え?」
するとチュッと音を立ててキスをされた。
「とりあえずチョコ、食って良い?」
隣の席の机に腰掛けて、チョコのラッピングを開けていく。
「これ・・・手作り?」
「あ、うん」
そして御幸君は箱からチョコを取り出し、口に入れた。
モグモグと動く口が何だか可愛い。
「ん?何?」
まさか可愛いなんて言えないし。
「えっと・・・自分が食べるつもりだったのが、御幸君に食べて貰えたから」
「へぇ・・・」
ニヤリと笑ったと思ったら、顔が一気に近付いた。
再び重ね合わされた唇。
「チョコの味した?」
「わ、わかんない」
「んじゃ、もう1回」
また腰に腕を回され体が近付く。
再度触れ合った唇からは、チョコの味がした。
2017/2/8