ダイヤのA

御幸一也

後ろハグ

二人が休みの日曜日。

目覚ましを掛けずに寝たにも関わらず、7時には目が覚めてしまった。

もう少し寝てしまおうか?

後ろから私を抱きしめる様に眠る一也の寝息が聞こえる。

動けば起こしてしまうだろう。

普段から忙しい彼を寝かしておいてあげたい。

そんな考えが逡巡している時点で、完全に目が覚めているのだ。

それよりなにより、今の自分は何も身に着けていない事実。

なんとか下着とシャツくらいは・・・

幸いにも回されてる腕は上掛けの上にある。

そっと動いて腕から逃れようと体を動かす。

「はっはっはっ。逃がさねえよ」

「うわっ!!!?」

力強い腕に引き寄せられる。

あっという間に彼の腕の中へと移動してしまった。

「起きてたの?」

「ん~普段の生活って怖えよな」

「規則正しい生活しすぎなのかな?」

「かもな。目が覚めたし、夜の続きでもする?」

一也の指が意志を持って私の首筋から鎖骨へと移動した。

慌てて彼の手を掴む。

「ダメ。掃除しないと」

「するけど、こんな朝早くから掃除したら近所迷惑じゃん」

「だーめ。ご飯作らなきゃ」

「ちぇー」

そして二人で起き上がり、服を着る。

顔を洗って二人で朝食を作って食べる。

二人で洗い物をして洗濯をしてベッドのマットを干して掃除をする。

元々家事をしていた一也は普段から色々してくれるので助かる。

掃除を終えてランチタイム。

食べ終わる頃に洗濯機が最後の洗濯を終えたと知らせてきた。

なので洗い物を一也に任せて洗濯を干しにベランダへ出る。

そこでベランダの汚れが気になり、雑巾を取りに戻って再び外へ。

掃除を終えて中に戻ると、ソファに一也がいた。

「珍しい・・・」

覗き込めば体が傾き、目を閉じて寝ている。

足元に野球雑誌が落ちてる所をみると、結構深い眠りの様だ。

雑誌を拾ってテーブルに乗せる。

洗濯籠を仕舞い、ブランケットを持ってソファへ。

彼に掛けた後、隣に座って寝顔を見る。

私が座っても起きないくらい、彼はこの家でくつろげているんだと思うと嬉しかった。

学生時代もプロ野球界に入ってからも寮生活だった彼は他人の気配に敏感だ。

初めて一緒に同じベッドで寝た時も、私の寝返りの度に目が覚めたらしいし。

安らかな寝顔に、私の瞼も重くなっていった。




「・・・・・・い、起きろー」

「・・・っ!!?」

「目、覚めた?そろそろ買い物に行かないと」

「んー・・・」

一也の声は聞こえるけど温かい物が自分を包み込んでいて気持ちが良い。

このまま寝ていたい。

「起きろって」

「え?あ・・・」

壁掛け時計に目をやると、時刻は3時を過ぎていた。

「おはよ」

目を開けても一也がいないという事は、後ろから抱きしめられているのだろう。

その証拠に、視界にはブランケットの柄が見える。

「起きた」

「良く寝てたな。俺もだけど」

「雑誌落としてたよ?」

「マジ?」

「うん・・・・・・ねえ」

「ん?」

「何でいつも後ろからのハグなの?」

「・・・・・・聞きたいの?」

「え?うん」

って正面切って抱きしめると照れんじゃん?」

「え?そ、そう?」

「そう。後ろから抱きしめてると、大人しく腕の中にいてくれんじゃん」

「なっ!?」

「んじゃ、はい」

と面と向かって腕を広げる一也。

これって・・・・・・

「ごめん、後ろハグで良いです」

「ほら照れんじゃん」

「だってなんか恥ずかしい!!」

より全部見てんの俺だぜ?」

「一也って恥ずかしい事も面と向かって言うんだもん!!」

「本当の事しか言ってないんだけど」

「もう!!あ、買い物に行くならメイクしなきゃ!!」

「スッピンで良いじゃん」

「やだ!それを知ってるのは一也だけで十分!!!」

「・・・・・・襲っていい?」

「ダメ!買い物するんだもん!お米持って欲しいし」

「夜、覚えてろよ?」

「え?」

「ほら、早く化けてこーい」

背中を押されて、洗面台に向かった。


2017/06/08