ダイヤのA

御幸一也

修学旅行

夏休みが終わって2学期になった。
高校2年の楽しみといったら修学旅行だろう!
あれこれと予定を組んでいると「自由行動はカレシと」という子が多い。
「彼氏でもいればな~」
「なに?もやっと彼氏作る気になった?」
「だってさ、も彼氏である君と回るじゃん?もだし」
「紹介ならするけど?本命、良いの?」
チラリとの視線が動いて、同じクラスの御幸君の方を顎で指す。
その先には御幸君と倉持が喋っていた。
「だって参加すらしないみたいだし」
「強豪校ってのも大変なんだねぇ」
「ほんとだよねぇ」
と、この話は流れた。
正直言って彼氏は欲しい。
けど、誰でも良いワケじゃない。
やっぱり彼氏彼女になるなら両思いが良いワケで。
背が高くてイケメンで、野球部の主将で、4番でプロ入り確実で雑誌にも取り上げられちゃう様な凄い人で、女の子から君付けでしか呼ばれない人が彼氏とかもあり得ないワケで。
そもそも告白とか出来ないし。
なんていうのかな?芸能人に恋してる?みたいな。
教師の話を聞かずに頬杖をつき、ため息をつきながら窓の外を見た。
そして次の授業中、教師の目を盗んで隣から折りたたまれた紙がほっぽり投げられた。
メモと言うかルーズリーフ?ノートの切れ端?が折りたたんであり『へ』と書かれていた。
その字に見覚えが無いけど、なんとなくメモを開いていくと『昼休み 屋上』とだけ書かれている。
(誰からだろう?)
教師が黒板に文字を書いてる隙に教室を見渡す。
けれど視線が合う人は一人もいなかった。

昼休みになっていつも通り達と弁当を食べていて、先ほどのメモの事を思い出した。
「あーーー!!!!」
「なによ、急に」
「用事思い出した!ちょっと後頼むね!」
弁当箱をさっと片付け、急いで屋上へと向かう。
9月とはいえ、まだまだ暑い日が続いてるんだから待ってるはずはないだろう。
けれどもしいたら謝ろうと、階段を駆け上がった。
ガチャ―――ドアを開ければムワっとした熱気がまとわりつく。
正直言って不快でしかないけど一応屋上を一回りするかと足を動かすと「?」と声がした。
呼ばれた方を振り向くと日陰から御幸君が顔を出した。
「あ、御幸君…」
「呼び出したの俺だから」
「え?」
「そんなに意外だった?」
「あ、うん……。あ!待たせてごめんなさい」
「いや来てくれると思ってなかったし。逆に暑い場所で悪い」
「そ、れは…大丈夫だけど……えっと、どうかしたのかな?」
「さっきの話、聞こえたんだけど。彼氏欲しいって」
「あ……き、聞こえたんだ」
なんだか男漁りしてるみたいで恥ずかしくなった。
「それって誰でも良いの?」
「誰でもってワケじゃ……」
「俺でもいい?」
「――――――え?」
自分の想像の範囲外からの言葉に思わず顔を上げて彼を見た。
表情からして、からかってる様子もない…多分。
「と言ってもが望むような付き合いは出来ないけどさ。修学旅行行けねぇし」
「試合…あるんでしょ?」
「そうそう。大事な公式試合はあるし、好きな子は彼氏作りそうだし、正直焦った」
「秋大会だよ……え?」
「公式試合?」
「え?ちがっ……え?」
頭の中が混乱しだしたら、あんなに眩しかったのに視界が真っ暗になった。
「好きだから彼氏は俺だけにしてくんない?」
回された腕が私を抱きしめてるのだと分かり、顔が赤くなるどころの騒ぎじゃない。
これは夢なのかもしれない。
けれどどうせ覚めてしまうならと「うん」と頭を下に振ると、抱きしめられてる腕に力がこもった。


2018/08/13