ダイヤのA
卒業アルバム委員会
「御幸!」
監督に名前を呼ばれて振り向くと、手招きしているのが見えて練習を中断して駆け寄る。
「はい」
「が呼んでいる。防具を外して行って来い」
「え?」
監督の肩越しに向こうを見ると、同級生であるがいた。
一礼をしてその場を後にし、彼女の元へ駆け寄る。
「練習中にごめんね」
「どうした?」
「卒アルの事で相談があるんだけど」
「ああ、じゃあそこの部屋に入ろう」
スコアブックなどが管理されているグランドの合間にある部屋へと彼女を案内する。
部屋をノックしてドアを開けると礼ちゃんがいた。
「あら、御幸くん、どうしたの?」
「あれ?礼ちゃんいたんだ。卒アルの打ち合わせっす」
「こんにちは、高島先生」
「お疲れ様。もうそんな時期か・・・・・早いわね」
「年を取るのを感じる?」
と軽口を叩いたらメガネがキラリとしたので慌てて口を閉じる。
礼ちゃんは用事があるらしく、二人きりになった。
「さっそくだけど3年の集合写真を撮影する日なんだけど」
「ああ、いつになりそう?」
「5月の・・・」
「失礼します!!!!沢村、入ります!!!!!」
と、やかましい声が聞こえた。
「何だ沢村・・・」
「スコアブックを奥村が・・・・・・先輩、お久しぶりです!!」
と沢村が頭を下げる。
本当に俺以外には礼儀正しいよな、コイツ。
「どいてください。あ、こんにちは」
「沢村君は相変わらずだね~。あと・・・奥村、くんだっけ?」
「はい、その節はお世話になりました」
「なに?知り合い?」
「沢村君は去年委員会で一緒だった。奥村君は入試の手伝いの時にね。眼鏡の子も一緒だった」
「ふーん・・・」
「先輩は何でこんなむさ苦しい所に?」
「卒アルの件で」
「グルルルル・・・・・・」
「キャップ、卒業できるんすか?こう、先輩の様に後輩に対して優しくしないと罰が当たりますよ?」
「なんでだよ。ちょー優しいじゃん」
「どこがだよ!」「グルルルル・・・・」
「仲良しだね~」
「そう見えんの?」
「見える」
「えー」
「あははは。ところで沢村君達、用事があって来たんじゃないの?」
「あ、そうだった!スコアブック借りて行きます!!失礼します」
「失礼します」
と二人は頭を下げて出て行った。
「仲良いじゃん」
「普通じゃない?」
「普通だったら、そこまで会話しねえって」
「まるで妬いてるみたいだよ?」
「妬いてるし」
「へ?」
「なに?」
「えーっと・・・そんな妬くような要素あった?あの会話に」
「会話じゃねえし」
「もっとわかんないわ」
「俺達が付き合ってるの知らないんじゃねえの?あいつら」
「知らないんじゃない?御幸が言ってないなら」
「んじゃ、今度言っておいて」
「わざわざ言う事?」
「この間仲良さそうに降谷とも歩いてたじゃん?」
「ああ、降谷君は付き合ってるの知ってるよ」
「マジ?」
「この間の野球部の休みの日に一緒に歩いてるの見られてたらしい」
「へぇ・・・・・・」
「・・・・・・なにニヤニヤしてんの?」
「ちゃんと言ったんだなーって」
「というかさ、御幸が私を好きで、私が御幸を好きなんだからそれで良いんじゃないの?」
「・・・・・・・・・」
「な、なに?」
「の口から好きって単語が出たから驚いた」
「えぇ!?」
「だってって言わねえじゃん?」
「頻繁に言う事でも無いじゃん」
「聞きたいもんじゃね?」
「これって普通、男女逆の会話だと思うけど」
「好きだよ」
「っ!!!?」
「顔真っ赤」
「意地悪いよね、腹黒って倉持が言うの分かる気がする」
「なんでそこで男の名前出すかなー」
本当ならここでキスでもしたい所だけど、此処はグラウンドからも見える位置。
練習中の今、ここでイチャつく訳にもいかない。
だから机の上に置かれた彼女の手を握りこむ。
「ちょっ!打ち合わせ!!」
「はいはい」
そして互いの日程を詰めて話し合いを終えた。
彼女はそそくさと立ち上がり、ローファーに足を入れる。
そして振り向くと同時に俺の胸倉をぐっと掴んで引き寄せられた。
その瞬間に重なり合う唇。
離れていきそうになる体を抱き寄せ、背後の扉に彼女を押し付ける様にしてキスを深くする。
「ふっ・・・はぁっ・・・・」
「んっ・・・」
もっと彼女との甘い時間を堪能したいが、練習中だし、彼女がこれから校内に戻るのを考えるとこれが限度。
彼女から唇を離すと、やはり甘ったるい顔をしたがいた。
あーあ・・・こんな時ばかりは野球より彼女を優先したくなる。
「それじゃあ、行くね。練習頑張って」
「顔、赤いの引いてから戻れよ」
「バカ」
そして彼女が部屋を出て行き、俺もスパイクを履いて練習に戻った。
2017.10.16