ダイヤのA

御幸一也

始業式

バレーボール部の私は高校三年の冬でも部活をしていた。

全国出場を決めた自分達は年明けまで試合があった。

試合があるという事は練習もあり、元旦だけが休みとなった。

花の女子高校生生活、結局彼氏いない歴を増やすだけで終わってしまった。

モテ期と呼ばれるものも、結局女の子からだけで終わったし。

幸いなのは大学をスポーツ推薦で合格出来た事だろうか。

始業式で退屈な校長先生の話を聞きながら周りを見渡す。

文武両道の青道でも、全員が推薦で上に行ける訳では無い。

校長の話を聞きながらも受験の事に想いを馳せている人もいるだろう。

先生の話が終わったのか、生徒の頭だけではなく顔も視界に入る様になった。

「え?あっ・・・」

1人の男子生徒と視線があった。

今の視線の逸らし方は露骨だったかもしれない。

でも自分が見ていたと思われたくないし・・・

ー!戻ろう」

前の方から友達が駆け寄ってくる。

ちゃんは私の腕に絡みつき、教室を目指した。

三年の廊下では、まだ先生が来ないから生徒が沢山出ていた。

私達もバレー部の子と話をしたりしてて、クラスまでたどり着いていない。

「お?じゃん」

「くらもっちー」

彼の声は独特で、聞くだけで判断出来た。

背後を振り返れば倉持と御幸君がいた。

「惜しかったな、春高バレー」

「うん、そうだねーって・・・倉持身長伸びた?」

「しつれーなヤツだな!もうお前に負けねえよ」

さんって何センチあるの?」

「え?・・・173センチ・・・」

「げっ!勝ってるの1センチだけかよ・・・」

「俺は180越えてるけど」

「っるっせい!」

びっくりした・・・・・・

まさか御幸君が私の苗字知ってるなんて・・・

倉持とは1年の時に同じクラスで。

まだ私の方が背が高かった。

ぎゃあぎゃあと騒ぐ倉持とは良く話をしていた。

御幸君は良く倉持といたけれど、会話らしい会話をした事が無い。

倉持とも2年からクラスが離れ、顔を合わせて話をする程度だった。

「そういや、大学行くのか?」

「なに、急に。倉持は?」

「俺はS大決まったぜ」

「え?行けるの?」

「失礼だな!お前!!」

「あははは。私は日○大だよ」

「んじゃ、俺と同じだな」

「え?」

「そういや御幸もか。学際呼べよ」

「何で?」

と二人がまた会話を続けている。

というか御幸君が日○大?

プロ入りじゃないの??

同じ大学だからって彼と一緒に行動するワケじゃないし・・・

「なあ」

「え?っ!!!??」

急に声を掛けられて顔を上げると、御幸君の顔が近くにあった。

「なっ・・・なに?」

「連絡先交換しねえ?せっかく同じ大学行くんだし」

「え?・・・ああ、うん」

ポケットからスマホを取り出す。

そして赤外線を使い連絡先を交換した。

その時丁度先生が来て私もクラスに戻った。

席に着くとスマホが震える。

メッセージを受信した様だ。

机の陰でこっそり見てみると、御幸君からだった。

『放課後に時間くんない?』




待ち合わせ場所は野球部のグラウンドの辺り。

先に練習を見ていた御幸君に声を掛けると、少し場所を移動した。

グラウンドと寮を繋ぐ道だ。

既に練習が始まっている為、人通りは少ない。

「急に悪い」

「大丈夫だけど・・・」

「あのさ・・・・・・・」

「うん・・・・・・」

頭をポリポリと掻き、何やら話辛そうだ。

けれど私から話を切り出せる事も出来ず、彼が続きを話すのを待っていた。

「・・・よし。回りくどく言っても仕方ないしな。

「は、はい」

「好きです。俺と付き合ってください」

「・・・・・・え?」

「結構前から好きだったけど、俺も部活やってたしさ。今になったんだよ」

「あ・・・」

きっと私の大会が終わるのも待っててくれたのかもしれない。

それ以前に信じられない気持ちが大きい。

そんな私の手を、彼がぎゅっと握った。

「大学も同じだって聞いて、もう言わなきゃって思った。これからの時間、一緒にいたいんだ」

「でも・・・」

「もう見てるだけなのは我慢出来ない」

「御幸君」

「試しでも良いよ。俺の彼女になって欲しい」

あの御幸一也からの告白だ。

私だって少なからず他の事同じような憧れる気持ちはあった。

それに彼の目が真剣だったから、私は頷いた。

「良かった~~~」

私の手を握ったまま、彼はしゃがみこんでしまった。

「御幸君?」

「名前で呼んでよ、

「っ!!!?」

彼は立ち上がって私を覗き込んだ。

「すっげー真っ赤。可愛い」

「ちょっ!?」

「とりあえず一緒に帰ろう。送ってくし」

私と手を繋いで、その手を彼の上着のポケットに。

彼の体温以上に私の方が熱いと思う。

校門に向かうまでに擦れ違う見学者と学生から注目を浴びながら、校門を出た。



「あ、そういえば」

先を歩いていた御幸君が肩越しに私を振り返る。

「な、何?」

「まだの気持ち、聞いてねえんだけど」

「え?」

そしてピタリと歩みを止めてしまう。

ポケットから繋いだ手を出して向き合う形になる。

繋いだ手は、離れる事は無いけど指を絡め合う様な形になった。

その行為が何だかセクシャルに感じて戸惑ってしまう。

御幸君は私をじっと見ている。

「ば、場所・・・変えない?」

「聞くまで動く気ねえけど?」

に・・・・・ニヤニヤしてる。

絶対気持ちがわかってるのに!

でも・・・確かにフェアじゃない。

でもでも!恥ずかしすぎる!!!!

「うー・・・」

「唸ってもダメ」

考え抜いた結果、私は彼の肩に額を乗せる。

「一也君の事が・・・好きです」

びくっと震えた肩からすると彼には聞こえたであろう小さな声で想いを伝える。

次の瞬間、私の体は抱きしめられていた。

「はぁ~~~・・・・・・嬉しすぎて暴走しそうなんだけど」

「っ!?」

暴走って何!?

今でも精一杯なんだけど!!!

「・・・・・・よし。とりあえず行こう」

離れた体の間を冷たい風が通り抜けていく。

けれど再び繋いだ手の温もりが、私の中を温かくしていった。



2017/1/13