ダイヤのA
俺のものだって自覚して
子供の頃から近くにいた存在。
幼馴染の関係を壊したのは自分で、恋人関係になれたのは中学の卒業前。
それからも関係は継続中だ。
高校は別々だったし、会うのは年末に俺が帰省した時。
高校卒業後に俺はプロになって寮生活、彼女は大学生で実家暮らし。
けれど高校時代の時よりは会う時間が取れた。
彼女が大学を卒業するのを期に、お互いの親の同意を得て同棲する事になった。
圧倒的に一緒にいる時間が増えると、見えていなかった物が見えてくる。
それは喧嘩の原因にもなるし、相手をより想う切欠にもなった。
本当なら同棲では無く、結婚して夫婦として生活をしたかった。
けれど自分が一軍に上がったばかりなのもあり、結婚は落ち着いてからにしようと。
同棲して2年が経ち、今から準備を始めれば丁度いいか。
広報の担当者とも話して、結婚の話を勧めようとしていた。
けれど俺の心とは裏腹に、目の前の彼女は曇った顔をしている。
そして溜息交じりで酒の入ったグラスを傾けた。
「パンフレットのモデル・・・する事になった」
「パンフレットって・・・自社の?」
「・・・うん」
彼女が務めるのは結婚式場。
あの「チャペルの雰囲気が好き」という理由で選んだ職。
仕事を始めてからは「神前も良い」とか言っていたっけ。
じゃなくて。
「マジ?いつ?」
「3日後の月曜」
「マジか」
「うん・・・」
彼女は俺に合わせて休みが月曜と木曜が多い。
その月曜が潰れる・・・
彼女を見るとグラスに口を付けたまま俺をみていた。
「仕事じゃ仕方ないだろ」
「・・・・・・うん、面倒くさい」
そしてグラスを置いてテーブルに突っ伏した。
頬杖をついて反対の手での頭を撫でてやる。
(自分が着せるはずだったドレスを、先に他の男の隣で着るのか・・・)
もっと早くに結婚してれば・・・後悔先立たずとは良く言ったものだ。
自分の中で複雑な感情が渦巻くのを、とめる術が無かった。
そして月曜になる。
俺が休みの日は、前の日に帰りが遅くても必ず送りに行く。
今日もそうだ。
俺は玄関先で靴を履いて彼女を待つ。
「準備出来たかー?」
「電気消したら・・・OK」
荷物と上着を持った彼女が玄関に来た。
その彼女の左手を取る。
「どうし・・・・・え?」
「花嫁なら指輪が必要だろ?」
左の薬指に嵌めたダイヤの指輪。
いつでもシチュエーションを思いついた時に動けるように注文しておいた指輪。
「まあ、偽物の結婚指輪付けるんだろうけどさ」
「一也・・・」
泣きそうになる彼女にキスをして「行くぞ」と促す。
するとも俺の意図に気付いたのか、笑って後を追って来た。
駐車場から出て、いつも通りの道を走る。
そして職場付近で車を停めるとが車から降りる。
何も言わずに降りるのは喧嘩した時だけで不思議に思っていたら運転席側に回って来た。
俺はボタンを押して窓を開ける。
腕を出しての左手を取り、指輪付近を撫でる。
「ま、予行演習してこいよ」
「・・・・・・うん」
いつもならさっさと職場に行くのに・・・・・・悪いと思ってんのか?
彼女の首に手をまわして抱き寄せてキスをする。
「仕事だろ?」
「うん」
「頑張ってこい」
「・・・・・・うん」
「君?」「「え?」」
いきなり彼女の苗字を呼ばれ、思わずそちらを見る。
すると年配の男性が一人立っていた。
「あ、部長・・・」
「み、み・・・みっ・・・・・」「「みみみ?」」
「み、みゆっ・・・・・御幸一也!!!!!」「「え?」」
あれからの部長さんとやらに捕まった。
車を停めさせて貰い、部長室に通された。
肝心な部長はすぐに出て行き、の同僚がお茶を持ってきてくれた。
「これってどういう事?」
「さあ・・・・・・」
すると「お待たせしました」と何かを持った部長さんが入って来て、俺達の前に座った。
咳払いをして、彼は身を乗り出すようにして口を開いた。
「単刀直入ですが、御幸一也選手・・・ですよね?」
「あ、はい。野球お好きなんですか?」
「大大大大好きです!!!!!御幸選手が入ってからの投手陣の充実振りは・・・」
「えっと、部長、私は撮影がある・・・のですが」
「ああああああ、それか。ちょっとその事で二人に話しがあるんだ」
「はい?」
「君と御幸選手の関係は・・・」
「かれ「婚約者です」」
「やはりそうでしたか!!!」
が真っ赤な顔をして俺を見た。
けれど俺は彼女を見る事はしないで、目の前の男性から視線を外さなかった。
「御幸選手、彼女との結婚は・・・」
「考えてますよ。ほら」
俺はの左手を持ち上げ、先ほど嵌めた指輪を見せる。
すると部長さんは驚いてはいても、ニコニコと笑顔を俺に向けた。
「物は相談なのですが、うちで結婚式を挙げて頂けないでしょうか?」
「その代り写真を使わせろと?」
「お話が早い」
「ですがそれは俺の一存で決める事は出来ません。なので広報を通して頂けないでしょうか」
「分かりました!!担当は」
「・・・」
とんとん拍子に話が進んでいく。
そしてとりえあず撮影の無くなったは休みとなった。
なので買い物をして、帰宅する事に。
昼ご飯を二人で作る。
「なんか・・・いいのかな」
レタスを洗いながら千切っている彼女。
「何が?」
「なんか・・・いろいろと」
あれからすぐに広報へと話が通った。
元々話をしてあったので、撮影の話は進んでいく。
けれど俺の顔を出すものと言うか「御幸一也と判断出来る物」は却下となった。
それ以外は問題が無いと。
そして一般的な範囲は二人のモデル料と相殺となる。
俺としては料金なんて払ったって良い。
それよりが誰かの隣に立つ姿を見なくて済む事が第一なのだ。
俺はフライパンでベーコンを炒めていたが火を止め、にキスをする。
「どうし・・・んっ」
「良かった、他の男の隣じゃなくて」
「妬いたの?」
「普通そうじゃね?」
「・・・・・・」
「え?何で驚いてんの?」
「気にしてないのかと思ってたから」
俺はレタスを洗ってるを抱き寄せる。
「ちょっ!?」
「あのさ、俺の事、なんだと思ってんの?」
「え?御幸一也だけど・・・」
「俺も男だって事」
「知ってるけど・・・手、ビチャビチャなんだけど」
「俺だってヤキモチくらい妬くし」
「・・・・・・うそ」
「いや、ほんとだし」
「知らなかった・・・」
「そう?なら俺がどんだけを好きか教えないとな」
片腕で彼女を強く抱きしめ、反対の手で彼女のスカートの中に手を入れる。
「ちょっ!何考えて」
「えっちいコト」
「はぁ!?」
「もう黙れって」
彼女にキスをして反論を言わせない。
そしてキッチンで彼女に思いのたけをぶつけた。
2017/06/27