ダイヤのA

御幸一也

I`m so happy

年末を数日後に控えた11月の土曜日。

空は青くて雲が様々な形になりながら、ゆるゆると風に流されるのを見ながら美容院のドアを開けると薬剤のにおいが鼻を掠める。

「いらっしゃいませ」

落ち着いた声のトーンに対しいて名前を告げると鏡の前に案内され、そこに腰かけるとすぐに担当者が来てくれる。

「ああ、今日でしたっけ?同窓会」

「そうなんです。セットもお願いします」

「かしこまりました」

いつものカットとカラーに加え、今日はセットもお願いしている。

普段着より少しお洒落をした洋服に合わせて髪をハーフアップで編み込んでもらう。

望んでいた通りフォーマル過ぎずとカジュアル過ぎない中間の仕上がりに満足して支払いを済ませて駅に向かう。

会場となるのは様々な路線が乗り入れている駅にあるホテルの大広間。

青道高校はマンモス校でもあるから、学年の同窓会ともなるとかなりの人数が集まる。

それこそ顔も名前も知らない同級生がいる事もある。

改札を抜けてホテルへ歩いている時でも「あの人もしかして同級生?」なんて密かに思ってしまう。



クロークに上着を預けて受付を済ませると会場へと案内される。

立食パーティーなので椅子などは壁際に用意されている程度。

見渡せば子連れの人もいれば見覚えのある人もいるし、誰か分からない、なんて事もあって見ているだけで楽しめた。

「もしかして?」

名前を呼ばれて振り向けば、懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「「「久しぶり~~~!!!!」」」

そこから高校時代に戻った様にきゃあきゃあと今までの出来事に花を咲かせる。

友人達の結婚話に出産に子育て、様々な経験をしている事に離れていた年数を感じさせる。

「そういえばって御幸君とこっそり付き合ってたよね!」

「え?」

「バレバレだったっつーの(笑)その御幸君も今じゃプロ野球選手でしょ?今日来てる?」

「まだじゃない?」

「というかの指!結婚指輪してんじゃん!」

「あ、ほんとだ!旦那の写真は!?私達の見せたんだから見せなさいよね!」

皆に詰め寄られて苦笑いしていると「本物で良くね?」と背後から声がした。

「「「……きゃーーー!御幸君!!!!」」」

「久しぶり」

「って、和やかに挨拶してる場合じゃないし!もしかして……」

「えっと、旦那です」

「旦那さんでーす」

そこから周りの人も巻き込んで驚かれた。

元野球部の面々や今でも付き合いがある友人たちは周知の事実だ。

と言っても結婚式は両親だけの内輪で済ませ、しかも入籍したのは一也の誕生日だったりする。

「あの御幸君がねぇ……案外とロマンチスト?」

会場のあちこちで声を掛けられてる一也を見ながら、友人たちがしみじみと語りだす。

「というか、結婚願望が彼にあったのに驚きだわ」

「なんか凄い言われようね」

「だって高校時代の御幸君って野球しか頭にない感じだったじゃない?」

「そうそう!休み時間も倉持と野球の話してるか、野球関連の何か見てるとか」

「なんか暗かったよね(笑)」

それから一也から話題も逸れて色んな話をした。

先生方とも久しぶりに会って話も出来た。

数時間という僅かな時間だったけど、有意義に過ごせたと思う。

幹事の締めの挨拶が終わり、バラバラと会場から人が減っていく。

「んじゃ、俺達も帰るか」

「野球部の人達良いの?」

「いいよ、いつも会ってんじゃん」

「そうだけど」

「それよりどっか寄ってかね?せっかく綺麗な格好してんじゃん」

「疲れてないの?」

「ぜーんぜん。それより綺麗な嫁さんとデートが良いかな」

「誰かからお世辞でも習ったの?」

「新婚ですから」

「お供しましょう」

そっと一也の腕に自分のを添える。

コートを受け取って少し早いクリスマスネオンの街へと歩き出した。


2011.11.15