ダイヤのA
心の中の声
春が終わり夏の訪れを感じさせる頃、
様々なスポーツの予選が始まろうとしていた。
そして俺は教室でスコアブックを見ていた。
「ちょっ!どうしたの!?」
そんな声が廊下から響いてくる。
出入り口に目をやれば、松葉杖をついているの姿があった。
夕飯を終え、俺は一般寮の脇に腕組みをして立っている。
目の前には松葉杖で体を支える。
「・・・・・・何で言わなかったの?」
「自分だって言わなかったじゃない」
俺と視線を合わせず、彼女は言った。
まあ、俺も言わなかったけど。
それは男のプライドってのも含まれていたワケで。
「・・・・・・で?いつやったの?」
「土曜の練習試合で。松葉杖なんて大げさだけど、予選までに治したいから」
彼女の言う予選と言うのはバレーボール。
「どのくらい?」
「・・・・・・三週間」
「三週間?」
「・・・・・・」
三週間って・・・・・・来週から予選始まるって言ってたよな?
彼女はリベロと言うポジションを任されてたはず。
初戦敗退は無いだろうけど、完治してすぐレギュラーに戻れるワケでもない。
かなりギリギリの線だ。
「もう、戻らないと」
「ちょっと待て」
「なに?って、きゃあ!」
俺に背を向けて歩き出そうとする彼女の腕を引いた。
バランスを崩し、俺に倒れこんでくるのを抱き留める。
その横で松葉杖がカランと倒れる音がした。
「あぶないな~」
「・・・・・・」
「ちょっ!御幸?」
離れようと力を入れてくるけど、俺は更に強く抱きしめた。
「・・・・・・」
「・・・・・・っ・・・・・・」
そしては俺の胸に顔を押し当て、泣き出した。
こんな時期の怪我は、本当に堪える。
リベロと言うポジション柄、明るく振る舞っていただろう。
そして去年の夏、俺も彼女に弱さを見せる事になっていた。
その時の彼女に感謝している。
だからこそ、黙ってみている事が出来なかった。
しばらくして、鼻をすする音がする。
「ありがとう」
俺は少し腕を緩め、彼女の腰の辺りで指を組んだ。
「すっきりした?」
「・・・・・・した」
「ははは!ブス顔になってる」
「見るな」
「うそ、可愛い」
頭を傾けながら顔を寄せていく。
そして柔らかな唇に重ね合わせる。
「その顔、俺以外に見せんなよ?」
「バカ」
松葉杖を拾い、彼女へ渡す。
ひょこひょこと戻って行く彼女を見送った。
その後、準決勝に間に合ったらしい。
2016/04/26