ダイヤのA

御幸一也

恋の始まり

「野球好きなの?」

それが御幸一也が話しかけて来た最初の言葉。

彼は私のペンケースに入っている球団と選手名のロゴ入りのペンをさしてそう言った。

「あ、うん」

「どこが好きなの?その選手」

「えっと・・・上腕二頭筋?」

「へ?・・・・・・・ははははは」

「え?」

「くくく・・・・・・いや、顔とかって言うのかと思ってた」

彼は笑い涙を浮かべながら話を続けた。

そして笑顔をひっこめて、改めて私を見る。

「高校野球は?」

「見るよ。でも去年は受験であまり見れなかった」

「ふーん?」

そしてニヤッと笑い「うちの高校の野球も見てみなよ」

その後、彼が野球部だって事を知った。



高校3年になった。

御幸とは会えば話す程度の仲で、2年も3年も違うクラス。

「あ、

「ああ、御幸」

「今度の予選から見にくるのか?」

「行くよ。って言うか、肩の周りに筋肉付いた?」

「はっはっは~。流石だな。肩の筋トレ続けてたしな」

「うん、しなやかな筋肉だね・・・」

すると横にいた小湊君が声を発した。

「へぇ、良く見てるんだね・・・」

「小湊君の広背筋も増えたよね」

「ははははは・・・」

すると御幸がお腹を抱えてしゃがみこむ。

周りが驚いて一瞬注目されるも、日常茶飯事なので元に戻っていく。

「それじゃあ先に行くよ」

「ああ、俺もすぐ行く」

そして小湊君の背中を見送った。

「なあ、

「ん?」

「大会終わったら俺と付き合ってくんない?」

「どこに?」

するとまた御幸はお腹を抱えて笑い出した。

「はぁ~やっぱお前サイコーだわ」

そして私に近づき、耳元で声がする。

「好きだから付き合って」

私は勢いよく離れ、耳を押さえる。

また大笑いされるかと思ったら、ニヤって笑う。

「その顔は俺の前だけにしとけよ。大会終わったら沢山その顔させるからな」

そう言い残し、部活へと向かって行った。

今年の夏は、今までで一番熱い夏になりそうだ。



2016/3/31