ダイヤのA

御幸一也

恋の味を教えよう

毎晩の様に野球を見て育ったからなのか、私も野球は好きだ。

プロ野球とは違い、高校野球は「同級生」がプレイすると知ったのは小学生の時。

そして女では甲子園に行けないと知った小学校高学年。

ルールの改正があり、女でもマネージャーとしてベンチに入れると知った中学生。

受験勉強を頑張り、この春、自転車で通える青道高校へ入学が決まった。

同学年で数人の野球部マネージャー候補がいたけど、

練習がキツくて残ったのは私一人だった。

春乃先輩には「私も一人だから頑張ろうね」って励まされた。

野球部はイケメンと呼ばれる人が多く、クラスメートとかには「紹介して!」って言われる。

でも、紹介 どころではないのが現状。

毎日朝晩の練習に加え、宿題もある。

覚えないといけない事だらけで一日が過ぎて行く。

同じ一年だけでも大変なのに、2、3年の名前を覚えるのも大変。

スコアブックが付けられるのが幸いし、3年の渡辺先輩とはよく話をする。

なら偵察に行かせられる」とお墨付きも頂きました。

それからミーティング等に参加する事も増え、御幸主将とも話す機会が増えた。

ミーティングに参加すると帰宅時間が更に遅くなる。

って自宅だよな?」

「あ、はい」

「将司に送って貰ってんのか?」

「?いえ。彼は徒歩ですし、私は自転車なので」

それからレギュラーメンバーの手が空いてる 人が私を送って行く事になった。

恐れ多くて断ったら、もっと怖い事になったのでしぶしぶと。

野球部専用(買い出し用)自転車を使い、送ってくれる。

先輩によって話をしながらだったり、黙々とだったり・・・面白い。

さん、ちょっと」

部活も終わり間際、高島先生に呼び出された。

ちょっとこの先生が苦手だったりする。

ジャージ上下の私と、綺麗に着飾った大人の先生。

なんとなく引け目を感じてしまい、並ぶのがイヤだった。

また性格が悪く無くて可愛らしいのがな~。

御幸先輩なんて「礼ちゃん」って呼んでるし。

監督室をノックし、挨拶をして入室する。

そこには渡辺先輩もいた。

呼び出された内容としては、やはり偵察だ。

試合会場に向かう途中「僕の後任をに任せたいんだ」と言われた。

何かを任されるのは嬉しいが、渡辺先輩程の洞察力は無い。

だからこそ、どこを見るのかを教えたいんだ、と。

渡辺先輩とは別にスコアブックを書き、戻ってビデオを確認しながらチェックを入れる。

そして互いのスコアやメモを照らし合わせる。

課題がある渡辺先輩は先に上がり、私はもう一度ビデオチェック。




「・・・・・い、風邪ひくぞ」

「え?」

机に突っ伏して寝てたらしく、声で顔を上げる。

目の前には頬杖をついて私をニヤニヤと見ている御幸先輩がいた。

「あ・・・え?」

「お前、ビデオチェックしながら寝てたぞ?」

「あ・・・」

「よだれたらして」

「え?」

慌てて口元を隠すと「嘘だよ」と笑われた。

「うっ・・・片付けます」

「もう9時過ぎてっから急げよ。送ってくから」

「いや、猛ダッシュで帰りますんで」

「ダーメ。いいから早くしろって」

「あ、はい」

そして自転車を並べ、自宅へ向かう。

いつも別れる場所に来て、自転車を降りる。

すると御幸先輩も自転車から降りてスタンドに足を掛けた。

「あの、ありがとうございました。帰りも」

「最近ナベと仲が良いな」

「そうですか?色々と教えて貰ってます」

「なんか・・・妬ける」

「え?」

「俺、結構ちゃんの事気に入ってんだよね~」

そう言いながら私の腕を引く。

よろけた体は御幸先輩に支えられた。

「ごめん、こんな言い方卑怯だよな。の事好きなんだけど」

「え?」

「デートらしいデートは出来ないけどさ。俺と付き合ってくんない?」

「へ?いえ、あの・・・」

抱きしめられて重ねられる唇。

その一瞬に小さな声で「恋の味、教えてやるよ」って聞こえた気がする。



2016/09/13