ダイヤのA
君を、ひとりじめ。
大学の部活が珍しく午前中で終わった土曜。
部屋の片付けと掃除をして何をしようか考えてた時、電話が鳴った。
相手は倉持で、ナベやゾノと飲みに行く誘いだった。
急に出来た暇を持て余していた俺は、その誘いに乗った。
待ち合わせたチェーン店の居酒屋。
案内された席には……あいつらの他にも女の子が数人いた。
倉持を睨むが、しれっと視線を逸らされる。
まあ、暇だったワケだし?
面倒だったら、さっさと帰ってしまおうと決めた。
相手の一人は倉持の大学の子らしい。
というか、人数が合ってない。
と思っていたら、遅れているとか。
俺はデレデレしているゾノを見ながらグラスを進めていた。
「ごめん、遅くなって!・・・・・・え?」
「おっそーい!」
後から来た人が固まっている。
仲間の女の子が手を引き、空いている俺の向かいに座った。
「黙っててゴメンって」
どうやら彼女も合コンだったとは知らなかったらしい。
「え、あ・・・うん。というか・・・・・・」
彼女が俺達をグルッと見る。
「元青道高校ナイン・・・」
「「「「え?」」」」
「、知り合い?」
「まさか!一方的に」
「この子、大の野球ファンなの」
「と言うか、高校野球までとは知らなかった」
「いや、高校が強かったから」
「へぇ?どこ?」
「稲実」
「「「「稲実!?」」」」
「私の話はここまでで!野球の事話にきたワケじゃないし」
そして話が切り替わり、何やら合コンらしい雰囲気になっていった。
「へぇ・・・あのチームが好きなんだ」
「今はいないキャッチャーが好きで、それからずっと」
「へぇ・・・プロ野球観に行ったりするの?」
「ファンクラブ入ってるから・・・」
「あのチームだと確か楊が入団してたよな」
「そうそう!あのコントロールが凄くて!」
「・・・・・・」
「あ、でもカーブだったら他の球団の・・・・・・・あ」
「??」
「ごめんなさい・・・止まらなくなっちゃうんですよ」
力なく苦笑いする彼女。
そして「ちょっと失礼」と席を立ち、この場を離れた。
隣に座る倉持が「どうよ」と小声で話す。
「ま、面白いんじゃね?」
そして席を変えようという事になる。
今度隣になった子は、どちらかと言えば面倒なタイプそうだ。
まだ戻らないさんが気になる。
一声かけて俺も席を立った。
ザワザワした店内を抜け、外に出る。
メールチェックをしようと携帯を出した所で、
しゃがみこんで電話をしてる彼女がいた。
「だーかーらー!目の前に御幸一也がいるんだけど!!!!ど~しよ~めい~~~」
口元を押さえて小声にしようとしてるんだろうけど・・・・・・筒抜け。
「え?今?外に出てきて・・・・・・だって本人目の前に言えないじゃん!」
「言ってるけどね」
「えっ!?」
漫画とかなら『ガバッ』て効果音がついてそうなシーン。
俺はニヤニヤしながら彼女の携帯を取り上げ、耳に当てる。
『ちょっと?聞いてんの!?』
「聞いてませ~ん」
『一也!?』
「そうでーす」
『は?』
「ん?今俺の足元で固まってるけど?」
『足元?』
「そう。これから彼女と話があるから、またな~」
鳴が電話の向こうで何か言ってたけど強制終了。
そして彼女の横に同じ様にしゃがみこむ。
彼女の顔を覗き込む様に顔を傾け問いただす。
「で?また目の前に御幸一也がいるけど?」
きっと俺の顔はニヤニヤしてるだろうな。
そんな俺を見て彼女の顔が赤くなる。
「えっ・・・あ・・・・・・」
「なになに~?」
「高校の時・・・学校全体で野球部の応援に行ったんです。その時の対戦相手が青道で」
「高1の時?」
「そう・・・。原田先輩のリードも面白かったけど、御幸君のリードも凄くて・・・」
「へぇ・・・」
「鳴に話したら知り合いで。稲実に誘ったけど断られたって」
「鳴より先に誘われてたからな」
「それで高2の時に決勝を見に行ったら鳴がいて。会わせてやるって言われたけど」
「来なかったよな?」
「・・・・・・」
「言ってごらーん?チャン」
「・・・・・・で」
「で?」
「憧れは憧れのままで良いと言うか・・・鳴も性格サイアクとか言ってたし」
「あんのヤロっ」
「だから見てるだけでいいやって・・・」
「ふーん。実際に会って話してどうだった?」
「えっ!?」
「ま、ここでしゃがみこんでする話でもねえか。・・・良し」
彼女の手を掴み立ち上がらせる。
皆がいる場所に戻って二人分の荷物を持ち、会費を幹事に渡す。
「さんと先に抜けるなー。んじゃ、まったなー」
彼女の腕を引いて店を後にする。
最初から彼女が気になってたし、良いチャンスだと思った。
それに俺の事も知ってたみたいだし?
夜はまだまだこれからってね。
2016/7/25