ダイヤのA
歩幅の違いは君と僕の違い
人は誰もでも生まれながらに平等である。
それなにの何故、男と女が存在するのだろう。
何故私は女で、アイツは男なのだろうか。
「女の子なんだから」と諦めた事は幾つあっただろうか。
何で何で何で・・・
「別れてください」
私の台詞に向かい側に座る男、御幸一也がジョッキ片手に固まった。
のは一瞬だけで、すぐにジョッキを置いて私を見た。
「・・・・・・何で?」
「何でって・・・。もういいかなって」
「意味わかんねえんだけど」
「だよね・・・」
自分でもそう思うんだから御幸の意見はもっともだ。
私もジョッキに手を伸ばし、ビールを飲む。
「あ、あの!御幸選手・・・ですよね。握手してください!!!」
可愛い女の子数人が近付いてきて、彼は笑顔で対応している。
高校時代の彼を知ってるだけに、彼の成長が伺える。
いや、高校時代だけじゃない。
彼とは幼馴染でもあるのだから子供 の頃から知っている。
・・・知っている?
本当に私は彼を知っているのだろうか?
何だか考えてたら分からなくなってきた。
「とりあえず出るか」
そう言って彼が伝票を持ち上げたので、後に続いて店を出た。
店を出てからどこに向かって歩いているのか分からない。
とりあえず彼の後を追う様に歩く。
何も喋らずに歩いていると、御幸との距離が広がって行く。
思わず立ち止って彼の背中を見続けた。
けれどそれは今に限った事では無い。
子供の頃からそうだった。
どんどん大きくなっていく背中、遠のいていく背中・・・
「・・・・・い、おーいー?」
名前を呼ばれて顔を上げると、彼が立ち止 って私を見ていた。
「あ・・・」
いつもだったら「早く来いよ」とか言いそうなのに今日は違った。
彼は「ん」と両手を広げているからだ。
「どうして・・・」
「さあ?」
「別れ話したよね?」
「納得してねえし」
「相変わらずの屁理屈」
「そうか?単に素直なだけだけど?と違って」
「それ、どういう・・・」
「とりあえず来いって」
訳が分からない。
けれどこのままでは埒が明かない。
それならばと、彼に近寄って抱きついた。
自分の背中に回された腕に安堵している。
「分かった?」
「全然」
「・・・・・・マジ?」
するとカレの温もりが遠ざかる。
そして先ほどの様に距離を作って腕を広げた。
「今度は走って来いよー」
お酒の入った体にずいぶんと無茶を言ってくれる。
本当にこんなんで何か分かるのだろうか?
彼に言われた通り、今度は小走りで彼の元へ。
そして勢い良く彼に抱き着いた。
一瞬失ったバランスも、彼に寄って戻される。
「今度は分かった?」
「・・・・・・」
何がと言いたいけど・・・何となくわかって来た。
「ってさ、どっか一歩引いてるよな。まさか、それに気付いて無いとは思わなかったよ」
「自覚なかったもん」
「だな。けどさ、俺は立ち止るし、も飛びついてくればいいんじゃね?俺が支えるし」
「でも」
「俺は結構お前に甘えてるけど?自覚無い?」
「それは・・・」
自覚が無い訳ではない。
変な所で甘えて来たりするのはある。
「そうか・・・あれって甘えられてるのか」
「はっはっはー」
「案外可愛いとこあるんだね」
「思い知ったか!」
「それ、威張る事?」
「だからさ、も俺に甘えれば良いって話」
「甘えるって?」
「とにかくさ。別れる気ねえから、外でも手、繋いでくんない?」
そう言って彼の手が私の指に絡まった。
プロ野球選手として活躍する彼と外出する時は並んで歩くだけだった。
どこか引け目を感じて遠慮していたのかもしれない。
繋がれた手から伝わる温度は、私の胸の中に浸透していった。
2017/1/27