ダイヤのA

御幸一也

誕生日2018

友人と一緒にランチを終え社に戻ろうと歩いていると、スマートフォンから着信音が鳴り出した。


鞄から取り出してみると表示されているのは『御幸一也』の文字。


友人に先に行ってと伝え、私は端に寄ってスマホを耳に当てた。


「もしもし?」


『飯時に悪ぃ。今大丈夫?』


「ご飯食べて職場に戻るところだから大丈夫。どうかしたの?」


『急で悪いんだけど、今夜って時間無い?』


「私は大丈夫だけど……どうかしたの?もしかして明日がダメになった?」


『明日は全然問題ないよ。今日の方が断ってくれていいくらしだし』


どこに行くのか分からないまま待ち合わせ場所や時間などを決めて電話を切った。




仕事が終わって待ち合わせ場所に向かう。


向かった先はサラリーマンの多い街で、スーツ姿の男性だらけ。


その合間を縫うようにして改札を抜けると目の前に彼の姿が見えた。


「お待たせ」


「ごめんな、疲れてるのに」


「それは大丈夫」


「まずは移動な」


そう言って私の手を取り、恋人繋ぎをする。


歩き出して5分もしない場所にある店のドアを彼が開けた。


店員さんに何か(周りが煩くて聞き取れない)言って案内されたのは奥の座敷だった。


襖が開くと、見慣れない男性達がいた。


倉持「ヒャハ!今日の主役が遅れてきやがった!」


前園「遅かったやないか」


白洲「先に始めてるぞ」


渡辺「ほら、まず挨拶からしないと。彼女が驚いているよ」


川上「空いてる場所に座って。注文はこのタブレットだって」


御幸「はいはい」


そして二人で座敷に上がって腰を下ろす。


まずは注文ということで、ビールを頼んだ。


倉持「んじゃ、御幸の結婚と誕生日を祝してかんぱーーーい!」


「「「「「かんぱーい!!!!」」」」」


グラスをガチャガチャと合わせ、一気に流し込む。


それから彼らの視線が一気に私へと向かう。


「……」


苦笑いと共に一也の事を指で突く。


御幸「あーはいはい。奥さんになるさんです。こいつらは高校の同級生っつーか野球部の同期」


「は、初めまして……」


「「「「「ちわーっす」」」」」


倉持「つーか、ちゃんと名前で紹介しろよ!一纏めにすんな!!」


前園「せやで!」


渡辺「まあまあ、いきなり全員の名前も覚えられないって」


いや、なんというか……スポーツしてただけあって、皆さん体格がよろしいようで。


結構威圧感があるというか。


そもそも、彼の友人に会うのが初めてなのだ。


一也とは職場近くのお店で会ったのが最初。


ランチで入った店にトレーニングウエア姿の男性が数人いて、その中の一人が一也だった。


他の店でも見かける事があって、彼らがプロ野球選手だと同僚に教えて貰った。


彼等のチームの練習場が近いからという事も。


一か月くらい経った頃だろうか?ランチを終えて店を出ると、一也がそこにいた。


そして今度二人で会って欲しいからと連絡先を渡され、嬉しさのあまりその連絡先にメールをしたのが始まりだった。


私は彼より4つ上で、スポーツマンの嫁にふさわしいものは何1つもっていない。


それでも結婚して欲しいと言われて頷いたのが約1年前の事。


あの出会いから3年経ち、彼の友人を紹介されないのは自分の存在が恥ずかしいと思われてるからだと思っていた。


けれど……。


御幸「え?コイツらに会いたかったの?」


「そういう訳じゃないけど」


御幸「俺は結婚してからにしたかったんだけどね」


「何でか聞いても良い?」


御幸「他の男に目移りして欲しくねえし。結婚しちゃえば無理だろ?それに馬鹿騒ぎしてるとこ見られてガキって思われたくねぇし」


「……年齢、気にしてたの?」


御幸「そりゃあ……。ってデート中にファンと会ってもそっち優先させるじゃん?俺の気持ちのが比重が重い気がするし」


「………」


倉持「おい、そこー!二人だけの世界作ってんじゃねぇぞ、ヒャハ!」


御幸「うるせー!男の嫉妬は醜いぜ」


そういいながら私の手を取り見せつける様に恋人つなぎをして、手の甲にキス。


「んっ!?ちょっと!!!」


御幸「はっはっは!」


前園「なっ!?ハレンチすぎるやろ!!!?」


渡辺「ハレンチって……いつの時代?」


白洲「変わってないな」


女子会とはまた違うノリだけど、男子だけって言うのも大人げない騒ぎ方をするんだな~と思った。


その後、一也の手が離れる事はなかった。




二次会にも誘われてたけど私がいるからと断って一緒に帰ってきた。


家に送ってくれるのかと思ったけど着いたのは彼の家で、タイマー予約でお風呂まで沸いていた。


着替えは置かせてもらってるし、朝ご飯の支度とかもしたいので先に彼が風呂に入った。


そして入れ違いに風呂を済ませて寝室へ行くと、ヘッドボードに体を預けて携帯をいじる一也。


「風邪ひくよ?」


「平気平気。暖房も入れといたし」


私がベッドに腰かけると、サイドボードに彼が携帯を置いた。


その時に時計も見えて、時刻は後2分で日付が変わる。


私もスマホのチェックをして、デジタル時計を確認しながら彼の携帯の隣に置く。


するとスマホが誕生日の歌を奏でた。


だからベッドへ乗り上げて、四つん這いで彼の上へ移動する。


「誕生日おめでとう、一也」


祝いの言葉と共にキスをする。


そっと触れ合わせた唇を離して彼を見ると、驚いた顔からニヤリとした顔へ変わった。


「サンキュー。一番に祝ってもらえるのっていいな」


「私も。メールだけの予定だったから。でもプレゼントは家にあるから明日取にいかないと」


がいればそれだけでプレゼントだけどな」


額を合わせて微笑むと、彼の顔の角度が変わって唇が重なる。


私は彼の肩に手を置いて自分のポジションを変え、彼のパジャマのボタンを上からゆっくりと外していく。


それが分かった彼は顔を離し、驚いた顔で私を見た。


「どうしたの?」


いつも受け身の私の行動に驚いてるのは当たり前だ。


けれど今日くらい主導権を握るのは私でもいいだろう。


私は意味ありげにほほ笑んで、自分のボタンを見せつける様にゆっくりと外していく。


全てのボタンを外し終わると、彼の手が私の腰を掴んだ。


「……もしかして酔ってる?」


「明日泊まりに来たら頑張ろうとは思ってたけど……お酒の力は借りてるかも」


「あー……まいった。まだそんな引き出し隠し持ってたんだ」


「そんなって?」


「なんつーの?昼は清楚で夜は娼婦……的な?」


「そんな私は嫌い?」


「俺にだけ欲情してるはもっとエロくても大歓迎だし」


「……ばか」


一也の言葉で羞恥心が強くなりそうなので、早々にキスで唇を塞ぐ。


結局この後すぐ、彼の好きなようにされてしまった。



2018/11/19