ダイヤのA
誕生日2016
秋の大会で怪我をした俺は、神宮大会をベンチ以外の場所から観る事になった。
スタンドでの観戦なんて、いつぶりだろうか。
チームのTシャツを着てメガホンを持つ。
練習しているナインを見下ろすと言うのは・・・・・・複雑だ。
「あ、せんぱーい!こっちこっちー!」
梅本が大きな声を出し、立ち上がる。
彼女が手を振る方に、先輩がいた。
「「「ちわーーーっす」」」
「こんにちは。久しぶり」
先輩は2つ上のマネージャーだった人。
きっと誰かに聞いて応援に来たのだろう。
俺の隣にいた吉川が場所を移り、彼女が座った。
「御幸がレギュラー落ち?」
「似たようなもんですね。怪我したんで」
「え?」
「いや、そんな深刻じゃないっすよ。もう治ったようなもんです」
それを聞いて彼女は体の力が抜けた様だ。
クリス先輩の怪我が発覚した時、物凄く怒って落ち込んでたしな。
「完治させなよ」
「あれ?心配しちゃいました?」
「バカ」
「はっはっは」
誰かから渡されたメガホンで俺の頭を叩く。
前にも良くやられたっけ・・・
そうこうしているうちに、試合が始まった。
試合は青道の勝利で終わる。
俺達はこのまま次の試合を観る事になっている。
隣に座っていた先輩は帰るらしく、周りに声を掛けて席を立った。
俺はトイレに行くと言って席を立ち、彼女の後を追う。
彼女の背中を見つけたと思ったら電話をしていた。
「・・・そう。勝ったよ。・・・はぁ?キヨの差し入れのお蔭なワケないじゃん」
何やら楽しそうだな・・・
俺は彼女の腕をグイっと引く。
すると目をまん丸にした先輩が俺を見た。
「・・・え?ああ、うん。じゃあね、キヨちゃん」
そして電話を切り、ポケットに仕舞った。
掴んだ腕はそのままだけど、何も文句は言われない。
「どうしたの?」
「俺にも連絡先教えてくださいよ」
「え?」
「てか、キヨちゃんて誰?」
「なに、ヤキモチ?」
「全然」
「あっそ。帰るから腕、離して」
「イヤだって言ったら?」
「タメ語禁止」
俺はニヤっと笑って掴んでいる手から力を抜く。
そして掌を合わせ、指を絡めた。
「っ!?」
「連絡先、教えてくださいよ」
「敬語なのに生意気に感じるのは御幸の態度がふてぶてしいからかな?」
「さぁ?」
「・・・・・・」
「ほら、早く言っちゃってくださいよ」
すると繋いだ手がぐっと引かれ、前のめりに体が動く。
彼女がすっと近づいたと思ったら頬に柔らかな感触が。
「誕生日おめでとう、一也」
「え?」
耳元で囁かれ、彼女が俺に背を向け手をヒラヒラさせて離れて行く。
彼女の背が見えなくなった時、何が起こったのか理解した。
「まいったな・・・」
結局連絡先は聞けないままだ。
俺は席に戻り、足を組む。
組んだ足の上に頬杖を突き、先ほどキスされた場所を掌で隠す。
「あ、先輩からだ・・・・・・ん?」
「どうした?」
彼女の名前に反応して、梅本を見た。
すると彼女はスマホの画面を俺に向ける。
『御幸に私の連絡先教えといて』
思わずニヤケそうになる顔をなんとか我慢し、梅本から彼女の連絡先を聞いた。
寮に戻ってから寝る前に彼女へ俺の連絡先を書いたメッセージを送る。
『冬合宿に顔を出します。彼氏候補の顔を見に』
その文字を読んで、どうやって彼氏に昇格しようか考える。
スマホにロックをし、俺は眠りについた。
2016/11/17