ダイヤのA

御幸一也

配達人

もう今日は一日サイアクだ。

二度寝して起きたら出かける15分前だし、

ストッキングは伝線するし、

改札で前の人がピンポン鳴らして別の列に並ぶ事になるし、

会社で使ってるマグカップを落として割るし、

仕事でミスはするし、

帰りに寄ったスーパーで牛乳買い忘れるし。

昼前に恋人から『会いたい』ってメール来てたけど、

こんな状態の自分を見られたくないから残業を理由に断った。

映画でも見ながらバスキューブを入れて半身浴でもしよう。

そんな事を考えながら玄関の鍵を開ける。

すると部屋の電気が漏れてて『消し忘れたかな?』と思ったら大きな靴があった。

そしてリビングから「おかえり」って一也が顔を出した。

私は驚きすぎてヒールのストラップを外す格好で固まった。

「ははは。驚きすぎ」

エプロンをした彼が玄関まで来た。

「なんで・・・・・・」

「ん?俺が会いたかったから」

そして私が買って来たものを持ち上げキッチンへ。

私も靴を揃え、後に続く。

「飯にする?風呂?それとも俺?」

悪戯っ子の様な顔をして自分を指差している。

なんだか見透かされてるみたいだから「一也」と言って抱き着く。

するとバランスを崩して倒れこんだ。

「あっぶねぇ・・・」

そういいながらも抱きしめたまま離さない。

そんな彼に顔を見られたくなくてぎゅっと抱き着いた。

前の時もそうだった。

私がどん底まで落ちてた時『自分が会いたかったから』と来てくれた。

その時に『一緒に住もう』って言われたけど、こんな自分を見られたくないから断った。

私の頭を撫でてた手が止まり「」と呼ばれる。

一也の胸の辺りにある自分の顔を上げないまま「ん?」と返事をする。

すると私を抱きしめたまま、彼が起き上がった。

「あのさ。やっぱり一緒に住もう」

「ヤダ」

「何で?」

「こんな顔、見られたくないもん」

「既に見てるし。2回も」

「だから今日はダメって言ったのに」

「まあ、そうなんだけど・・・でも心配でこうやって来ちゃうし」

「・・・・・・」

「と言う事で、明日結婚しよう」

「・・・・・・はぁ!?」

「一緒に住むなら同じ苗字の方が何かと便利だし」

「そういう問題!?」

「付き合い始めた時からと結婚する気でいたし」

「え?」

「だから俺としてはかなり待ってたワケで。はあまり結婚とか考えてなさそうだったし。

 とりあえず飯食って風呂入ってイチャイチャしよう」

「ちょ、ちょっと」

一也は私を抱き上げテーブルの前に座らせた。

このまま一生、彼のペースに乗せられるのも悪くないのかもしれない。

沈んでいた気持ちが、一気に天にも昇る気持ちに変わってた。



2016/4/18