ダイヤのA

御幸一也

Aventure~一夜限りの恋~

「もしかして、俺って遊ばれただけっすか?」

私の背中にある壁に手を付き、反対の手はポケット。

いわゆる壁ドン状態。

彼のファンなら涙して喜ぶシチュエーションなのだろうな。

「聞いてます?センパイ」

「聞いてるよ」

「んじゃ、答えてくださいよ。一夜限りの遊びなのかどうか」

「答えてどうするの?」

「さあ?まずは納得できる答えが聞きたいかな」

「へえ。答えを求めるなんて、案外可愛い所があるのね」

「そう?リアリストなんだと思うけど」

「そうは見えないけど」

「そうかな?でも正直ではあるよ。答えはまた今度聞かせて」

そして顔を傾け、私の唇にキスをする。

角度を変えて何度も何度も…。

入り込んでくる舌に自分のそれを絡めて応える。

満足したのか分からないが、離れていく唇を何となく見ていた。

その唇が見えなくなった事を寂しいと感じるなんて……その事を口に出す事は無かった。



一か月前の事だった。

付き合っていた彼氏に浮気される、ありがちなパターン。

待ち合わせをしていた訳では無いけど彼の部活が終わる時間に驚かせようとしただけ。

部室の前に言ったら何となく声が聞こえてドアをそっと開ければ、

彼氏が女の子の足を抱え上げて腰を振ってる場面だった。

私は静かにドアを閉め、兎に角その場から離れた。

どこを通って、どこに向かったのか覚えてない。

とりあえず真っ暗な廊下を歩いて、どこのか分からない教室に入った。

膝を抱え込む様に座り込み、膝に頭を乗せて泣いた。

高校時代の彼氏が結婚相手だなんて思ってはいなかった。

だから別れる事になるのも理解していた。

けれど……『今』だなんて思いもしなかった。

好きなのに…まだこんなに好きなのに!!!!

この間デートをして体を重ねたばかりなのに。

私の事が好きじゃなくなった?飽きたのかな?物足りなかった?

私は彼だけが好きなのに、彼は私だけじゃなかったという事。

単にそれだけ。

頭では理解してても感情がついて行かないだけ。

「誰かいるー?」

ガラっとドアが開いて誰かが入ってくる。

私は泣き顔を見られたく無くて顔を伏せたままにした。

「あ、いた」

「ほっといて」

「と言われても…。泣いてるし?」

「貴方に関係ないから」

「まあ、泣かせた覚えねえし」

「……」

「だーから、泣くなって」

グイッと腕を引かれて、膝から顔が離れた。

目の前にはサングラスの様な薄い色をしたメガネを掛けた男子生徒が。

確か二年の御幸とか言う…

「……キスしたら泣き止む?」

「は?…んんっ…」

突然重ねられた唇。

彼とは違う唇。

ゆっくりと、角度を変えて重ねられ、ついばまれる。

キスが……温かくて、優しい。

上を向いた時に開いた唇の間から舌が入れられる。

絡ませるように、私の中を探る様に。

唇の間から漏れる吐息が甘さを含んでいる。

くいっとネクタイが緩められていき、ブラウスのボタンがいくつか外された。

外気に触れた肌を、温かい掌が撫でていく。

「抵抗…しないんだ」

耳元で囁かれた言葉に返事をしない。

掌は止まることなく動いていて、ブラジャーの上から膨らみを覆った。

手が下がると同時にブラのカップに引っかり、現れた頂を指が掠める。

「んっ…」

反対の手が太腿を撫で上げて行く。

「ちょっと体勢変えるよ」

彼が壁に寄りかかりながら座り、その上に横抱きの様にされる。

私の背中には彼の立てた足があり、左腕が首の下にある。

そのまま彼の顔が近付いてきて唇が重なると同時に、下着の中に彼の指が入って来た。

「んーっ…」

最初は撫でるだけだった指が、ナカに入り込んでくる。

「すげぇ…飲み込むみたいに入った」

「はぁっ…」

「そんなに締めなくても。ちゃんと気持ちよくするって」

言い終わる前にナカの指が動き出した。

入っていない指が、クリトリスを刺激して来る。

「聞こえる?グチャグチャっていってるの」

「ふっ…んっ…・」

「もう一本いけそうだね」

一度引き抜かれた指が、太さを増して入り込んでくる。

それと同時に擦られた場所に、思わずのけぞってしまう。

「すっげー締まった。イイとこに当たった?」

ナカで動き回る指。

私が知っている彼氏では無い男の指。

真っ暗な校舎内と言うシチュエーションもあってか、私の感度は今までにないものだ。

そして御幸君の指が私のイイとこを擦りあげ、私は声を殺すように彼の肩口に顔を埋めて達した。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

「悪いけど時間が無いんだ」

私を抱えながらジャケットを脱いで私に被せ、その場に押し倒された。

下着を脱がされ膝を抱えられると足の間に御幸君が。

カチャカチャと音がして、彼の固い物が宛がわれる。

「挿れるよ…くっ…」

今までのゆっくりした時間とは打って変わって激しい律動。

「本当はっ…ゆっくり…気持ちよくさせてあげたかったけど…くっ…」

上体を私の上に倒し、キスで声を殺す。

激しい中でも私の事を考えて動いているのがわかる。

私が反応する所を攻めてくるから。

「…っ…あっ…・もうっ…・・」

「俺もっ…」

そして快楽が全身を突き抜けて行き、頭が真っ白になる。

その瞬間、太腿に生温かいものが。

「ふう……」

彼の体が離れて行き、「あーあ」と言いながら私の足に掛けたものを拭っていく。

そして彼と繋がっていた部分も拭われた。

恥ずかしさもあって文句も言いたかったが、それどころではなかった。

疲労感がハンパじゃないのだ。

そして下着まで履かされ、抱き起される。

近くにあった御幸君の温もりに、思わず頬を寄せる。

「寝たらダメだって」

「疲れた…」

「送ってくよ」

「いい…」

「ここで寝ちゃいそうじゃん?」

なんだかんだと言われながら、身体を支えられて下駄箱に行く。

途中で誰かに会ったけど「具合が悪いみたいだから送ってくる」と言っていたのが聞こえた。

とにかくたくさん泣いてSEXした体は疲労感に苛まれていた。

御幸君に支えられながら駅まで付き「もう平気」と別れた。

「電車で寝るなよ?セ・ン・パ・イ」と言って手を振りながら走って行った彼。

何で私の名前を?

けれど考える思考能力は無く、家に帰るのが精一杯だった。

そして翌日、浮気してるのを目撃したと言って彼とは別れた。

あっさりした別れだった。

なんでこんな男が好きだったのか分からなくなった。

涙も出なかった。

昨日はあんなに泣いたのに。

昼休み。

中庭のベンチに座って買った紅茶のプルタブを起こして開ける。

「こんにちは。元気そうっすね」

背後から覗き込んで来たのは御幸君だった。

「なんの事かな」

「またまた~」

私は腰を上げて彼を見る。

「もう、本当に放っておいて」

それだけ言って教室に戻った。

それからと言うもの、彼は会うたびに声を掛けてくる。

あれから友達に話を聞いた。

元々彼が女生徒に人気があるのは知っていた。

友人にも彼の事が好きな子がいたからだ。

本格的に野球をしていて、プロから声が掛かってるとも聞いた。

そんな彼を1度とはいえ、関係を持ってしまった事を後悔した。



「好きだ……って言ったら信じる?」

授業が終わって帰ろうと友達と歩いていた。

校門に差し掛かる手前で腕を引かれた。

私の腕を引いた人物は御幸君で、制服じゃない格好をしていた。

「え?御幸ってが好きなの?」

「うそっ」

「先輩方、ちょっとさん借りますね」

と腕を引っ張って行かれた。

そこは普段足を踏み入れる事が無い野球部のエリア。

何かの建物の裏へと足を進める。

そして足を止めると真っ直ぐに私を見た。

いつもみたいに笑みも無く、真剣な顔だ。

「好きだ」

「なんで…」

「去年から知ってたよ。最初に見たのは体育祭だった。400mリレーで走ってた」

「え?」

「良いなって思ったのに、彼氏いたしさ」

「……」

「けどこの間泣いてたじゃん?正直、チャンスだと思った」

「……」

さんが弱ってるなら、そこに付け込むよ。例えそれが卑怯でも。正々堂々なんて綺麗事だし。ただでさえ学年違うしさ」

「どうして」

「だから言ってるじゃん?好きだって」

彼の腕が私をそっと抱き寄せる。

その腕は優しくて温かい。

「そろそろ限界」

「なんの?」

「誰かの物になっちゃいそうだったり、俺の理性もかな。触れたいしキスしたいし抱きたいし」

「即物的すぎ」

「そんなもんじゃね?」

「そう…なのかな」

「多分な」

そう言って笑う彼の振動が伝わってくる。

それは心地のいいものだと感じた。

「じゃあ、キス、して?」

「喜んで」

重ねられた唇も、温かくて優しいもの。

喧嘩をする事もあるけれど、

時を重ねても色あせることなく彼の全てが温かくて優しいままだった。


2017.04.25