ダイヤのA
甘いキス
2月14日。
なぜか私は高校時代の同級生の御幸一也とちょっと洒落た居酒屋にいる。
1年以上前になるけど、友達の結婚式で再会。
で、話をしていたら彼の所属するチームと、私の職場が近い事が判明して連絡先を交換。
高校時代の自分が知ったら気絶するかもしれない。
なんせ高校時代は彼に片想いしていたから。
憧れの御幸一也は実際と違っていて、孤高の王子様でも無く普通のアラサーで。
彼氏と別れたばっかりだったのもあり、それから時々飲み食いを共にしている。
そして今日もお互い恋人がいない者同士で飲もうという事になった。
待ち合わせの店に行くと既に彼は来ていたので、向かいの席に腰を下ろす。
「ごめん、遅くなった」
「5分だけどな」
「そうだけど……何頼んだ?」
「これとこれと……」
最近主流であるメニューのタブレットを覗き込み、飲み物と食べ物を注文する。
程なくして飲み物のビールが届いたから「乾杯」とグラスを合わせる。
いつもの様に他愛ない会話をする。
時間が経過して私がトイレに行って席に戻ると、御幸が何かニヤニヤしていた。
「え?何?」
「はい、これ」
机に差し出されたのは私が好きなブランドのチョコ。
しかも自分用に買おうと思ってたら売り切れたヤツ!
「え?うそっ!」
「つねってやろうか?」
「え?ヤダ」
「んじゃ、素直に受け取れって」
「………何か企んでる?」
「ん~それなりに?」
「え?高い物は無理だよ?って言うか、御幸くんのが稼いでるんだし」
「物じゃねぇよ」
「あ、わかった。料理の作り置きしに来いとか?」
「まあ、それはそのうち?」
「微妙な答ね。なんなの?」
「俺と付き合ってよ。もちろん、結婚前提で」
「はぁ?それって居酒屋で言う事?」
「高級レストランとか予約したって言ったら疑うだろうが。まあ、それもそのうちな」
「………」
「おーい、サーン?」
「マジで言ってるの?」
「本気と書いてマジと読む」
「なんか嘘っぽい」
「はっはっはっ、でもマジだし」
「料理出来ないよ?」
「俺出来るし」
「仕事好きだよ」
「俺も好きだし」
「えっと」
「ぷっ……あははは」
「な、なに?」
「いや、なんか可愛いなって」
「なっ!?」
「明日にでも結婚しようって訳じゃねぇしさ」
気楽にいこうやと話が終わった。
そしてお会計を済ませ、店の外に出た。
なんか掌の上で転がされっぱなしも癪なので、彼の上着の裾を引っ張って「かずや」と呼んでみた。
すると驚いた彼の顔。
なので胸元を掴んで引き寄せ、甘いキスをしてやった。
2023/02/10