ダイヤのA

御幸一也

愛し合ったその後

身体がだるい。

水音がしてゆっくりと瞼を上げると見慣れない景色が飛び込んで来た。

「え?」

驚いて上半身を起こすと、ベッドの周りに脱ぎ散らかした衣類が見えた。

そして自分が何も身にまとっておらず、決して大きくは無い胸を隠すように上掛けを引っ張った。

ぼんやりしてる頭を回転させて考えないと!

えーと・・・今日は仕事が終わってからデートで食事に行った。

付き合って2か月になる恋人とはキス以上の事をしておらず、お酒の力を借りて彼の誘いに乗ってホテルに入った。

そして・・・・・・まあ、うん。

沢山の愛情を注いで貰った・・・んだ。

いや、もう・・・本当に恥ずかしいくらい気持ちよくして貰ったと思う。

・・・・・・・・・・・途中からの記憶が無いくらい。

―――恥ずかしい!!!!

セックスが初めてだった訳じゃない。

良い歳だし、それなりの場数は踏んでいる。

けれど今までのそれと比べ物にならない程の快楽を得た。

彼との行為を思い出してしまい、ベッドの上で体育座りで膝に額を当てて目を閉じる。

自分とは釣り合わないくらいのイケメンの彼が、私の上で汗をかいて動いているのを思い出す。

スポーツマンの彼の体躯の良さに加え、あの体力・・・・・・思いだすだけで恥ずかしい!

と、その瞬間にドアが開く音がして急いでベッドに寝転がる。

水音が止まったからシャワーを浴び終えたのだろう。

けれど面と向かって彼と顔を合わせるのはまだ恥ずかしいので寝たふりを決め込もう!

先ほどと同じ体制になり、目を閉じた。

程なくして今度はバスルームへの扉が開閉する音の後、人の気配が動いた気がした。

そしてゆっくりと小さな音を立ててベッドが軋んで彼が腰掛けた。

ベッドの揺れが続き、彼が私の背後に来たのが分かる。

そしてゆっくりと優しい手が私の髪をかき上げた。

「・・・・・・ちゅっ」

露わになった頬にリップノイズが。

頬にキスされた瞬間に冷たい物が首筋に。

「ひゃぁっ!?」

「あ、わりぃ・・・」

首筋を押さえて振り返ると、びちゃびちゃの髪から水がしたたり落ちてバスローブに吸い込まれているのが見えた。

濡れた首筋が妙にセクシーで直視出来ず、掛け布団を引っ張り上げて潜り込んだ。

「大丈夫?」

大きな手が頭を撫でる。

私からすれば恥ずかしくて顔を出せないのに、男性は違うのだろうか?

?」

「ん?」

「具合悪い?無理させたし」

「だ、大丈夫・・・」

「ほんとに?」

「ほ、ほんと」

「じゃあ、顔見せてよ」

「―――む、無理」

「なんで?」

「は、恥ずかしい」

「可愛かったし綺麗だったのに」

「うそっ!」

「ほんとだって。俺嘘つかねえし」

再びベッドが揺れて、彼が横たわった。

私は布団から目を覗かせる。

優しい彼の目が私を見ていた。

手を出して彼の濡れた髪に触れる。

「乾かさないと風邪ひくよ?」

「いつもそのままだし、平気」

「髪にも乾かした方が良いんだよ?」

「んじゃ、がやってよ」

そして大きな手が私の手を掴まれたと思ったら視界が揺れた。

背中にベッドの固い感触。

彼の向こうには天井が見えた。

「一也?」

「もう1回シても良い?」

「え?」

「あれじゃ足りないし。それで余裕があったら一緒に風呂に入って髪、乾かしてよ」

私の返事を待つより先に、唇が塞がれてしまったからイエスの代わりに彼の体を抱きしめた。


2018/04/02