ダイヤのA

御幸一也

サンタクロースの正体

師が走るとは昔の人は上手く例えたものだ。

などと感心している場合では無く、残業続きの12月の恨めしい事ったらない。

クリスマス?それって美味しいの?クルシミマスしか無い自分。

いや、恋人はいるけどね?

大学で知り合った御幸一也って男がさ。

でもプロ野球入りして寮にいるしで、最後にデートしたのはいつだったか忘れた。

それでも何とか残業して23日からの3連休はもぎ取った。

実際は終電も無くなって帰ったのは23日になってからの事だったけど。

メッセージのやりとりで、御幸とのデートは夜からになった。

だから午前中寝倒して午後から掃除と洗濯をしようと考えてからベッドに入った。

寝返りを打った時、隙間に入り込む風が温かい事に気付いた。

きっともう朝なんて時間はとっくに過ぎているんだろう。

目覚ましが鳴らない限りは寝ようと思ったが、何やら良い匂いまでしてくる。

「え?」

思わずガバっと起き上がると、その向こうにある対面キッチンの向こうに御幸がいた。

「おはよう。良く寝てたな」

「あ、おはよう・・・」

え?何で御幸が?待ち合わせって夜だよね?

合鍵は渡してあるからいるのは変じゃない。

え?

寝起きの頭であれこれ考えてると、御幸のドアップ。

「え?・・・んっ・・・」

「まだ寝ぼけてんの?」

触れただけのキスはすぐに離れ、ニヤニヤした御幸が再び見える。

ニヤニヤしたまま彼がベッドに腰掛けて、体が揺れた。

「おーい」

「え?あ、うん」

「まだ寝ぼけてんのかよ」

すっと彼の腕が伸びて来たと思ったら、首の後ろをぐっと引かれてキスされた。

おはようのキスにしては濃厚なヤツ。

「ちょっ・・・あっ・・・・・・」

腕を上げて彼の胸を押す。

やっと離れて行く唇。

その時に見えた赤い舌が妙にセクシーだ。

「やっと目が覚めたみたいだな」

「おかげさまで」

「このまま押し倒したら怒る?」

「は?」

何を言っているんだろう、この男。

言うが早いか首の後ろにあった手が肩に移り、後ろに倒された。

「サカって悪いけど、ちょっと限界」

文句を言う唇は、あっという間に塞がれてしまった。



髪を撫でられてる感触に目を開ける。

「ごめんな・・・」

あまり詫びた様子も無いが、まあそれなりに悪いとは思っているんだろう。

確かにご無沙汰だったし?気持ちよかったし・・・文句は言えない。

「寝起きのがすげー可愛くてさ。ご無沙汰だったし理性ぶっ飛んだ」

「うん・・・」

「なあ、今日はもうこのままでも良い?」

「うん?どこにも行かないって事?」

「そう。なんか離れがたい」

「良いけど・・・何も無いから買い物に出ないと」

「それはバッチリ。買い物してきたしな」

「・・・・・・最初からそのつもりだったの?」

「まあね。とりあえず朝昼兼用の飯にすっか。ちょっと待ってろ」

ベッドから御幸が起き上がって、さっと衣服を纏う。

そしてキッチンに向かい、何やらやりはじめた。

そして大きなトレイに何かを乗せて戻ってくる。

「breakfast in bed。たまにはいいだろ」

私は渡されたシャツを羽織り、御幸の準備してくれたご飯を食べる。

ベッドの上でなんて映画の様だ。

そして食べ終わると風呂に入ってさっぱりした。

にも関わらず、御幸は何かと私を求めて来た。

時も場所もかまわずだ。

せっかく取った休息も、御幸に消化されてしまった。

私が寝ている間にベッドに寝かされていて、その間に夕飯の鍋が用意されていた。

二人でそれを食べ、SEXをする。

気が付けば洗濯もされていて、なんだか堕落した休みになってしまった。



ー!行くぞー!」

御幸の大声で目が覚める。

「ほらほら出掛けるぞ。後、一泊出来る荷造して。超厚着系な」

「一泊?どこ行くの?」

「秘密」

そして御幸が持ってたボストンバックに自分の荷物を入れる。

急いで化粧をして御幸に言われた通りに着替えて家を出る。

向かったのは東京駅。

駅弁を買って新幹線に乗り込むと、着いた先は雪国だった。

「さむっ!でも綺麗!!!!」

視界を遮る様に降りそそぐ白い雪。

御幸もだけど私も生粋の江戸っ子。

滅多に降り積もらない雪はなんだかテンションが上がる。

雪国での苦労を知らない都会っ子ならではなのだろうけど。

とりあえず荷物を駅のロッカーに入れ、駅の周辺を歩く。

寒さ凌ぎもあって、あちこちの店に入った。

郷土の物を見て、触れて、二人の時間を堪能する。

一昨日までの忙しさが嘘の様だ。

駅に戻って荷物を取り、御幸が予約していてくれたホテルに向かう。

案内された部屋は露天風呂付の部屋。

日本庭園の中に置かれた大き目の湯船。

それを彩る白い雪。

私は窓に張り付くようにして見入っていた。

「入る?」

「入りたい!でも・・・」

「もちろん一緒にな」

「だよね~・・・」

「昨日だって全部見たんだし、何を恥ずかしがるんだか・・・」

「乙女心は複雑なの!」

「はいはい、ほら、いくぞー」

「ちょっ!?自分で脱げるし!」

私の服を脱がしにかかる御幸の手を押さえこむ。

御幸はさっさと服を脱いで「さむっ!」と言いながら外に向かった。

私も御幸が湯船に浸かったのをみて、後に続いた。

二人で並んで湯船に浸かりながら舞い散る雪を見ていた。

しばらくすると腕を引かれ、背後から抱きしめられる様な形になった。

「ホワイトクリスマスが良いって前に言ってたじゃん?気に入った?」

「え?あーーー!今日ってクリスマスイブ!!!」

「忘れてたのかよ」

「仕方ないじゃん!忙しかったんだもん・・・」

くつくつと笑われ、振動が伝わる。

私のお腹の前で組まれた手に、自分のそれを重ねる。

「ありがとう・・・」

「どういたしまして」

「大事な事忘れてたんだけど・・・」

「何?」

「プレゼント・・・買ってないや」

「なんだ、そんな事か」

「なんだって」

がいれば十分だしな」

「でも御幸にされてばっかりなのも悔しい」

「勝負じゃねえし。てか、1つお願いあるんだけど」

「え?何?」

御幸からのお願いなんて、未だかつてない。

意外過ぎて思わず振り返ると、真剣な目をした彼がいた。

「結婚しよう」

「え?」

「指輪は部屋だし色々プロポーズの事も考えてたけどさ。今のが滅茶苦茶綺麗で、なんか言いたくなった」

「御幸・・・」

「まずそれな?も御幸になるんだし、そろそろ名前で呼んでくれませんかね~」

「まだ返事してない」

「え?しないの?」

「するけど」

「だからさ、名前で呼んで」

何だかおねだりされてる気分だ。

いつもクールとはいかなくても飄々と何でもこなすイメージの彼。

その彼が何だか可愛く見える。

私は御幸を跨ぐようにして上に乗り、彼の首に腕を回した。

「・・・・・・大好き、一也。御幸になりたい」

「あー・・・・・・キタ、ドストライクです」

「何が?」

「こっちのスイッチも入れてくれちゃいましたね。せっかく外では我慢しようとしたのに」

重ねられた唇は熱く、欲を含んだものだった。

ここが外だとか、他の部屋に聞えるんじゃないかとか気になったけど彼と愛し合った。

のぼせたのはお湯になのか彼になのか分からなかった。




2016/12/26