ダイヤのA

御幸一也

苔薔薇 前編

さん視点


私には付き合い始めて2か月の彼氏がいます。

彼は御幸一也と言って、今はプロ野球選手です。

私は野球をまったくもって知りません。

知ってるのは野球は9回で1回にアウト3つで交代くらい。

なんでそんな私が彼と知り合ったかと言えば、高校が同じだから。

もっと言うと、高校時代にお付き合いしてたんです。

と言っても彼は部活で忙しかったし、デートらしいデートもしなかったし。

唯一恋人らしいことと言えばキスをしたくらい。

そして去年の同窓会で再会し、再び連絡を取り合ってるうちに「お互い恋人がいないなら寄りを戻さないか?」と言われた。

私としては独り身だし、御幸の事は会えない寂しさから別れたし、それも良いかも?と軽い気持ちでOKした。

忙しい合間を縫ってデートの時間を作ってくれる彼に、また恋をした。

最近のデートではキスもするし。

そして今日、初めて彼の家に呼ばれた。

初のお泊り!しかも2泊!!!!

「日曜は俺の誕生日だし、1日離れたくない。月曜の朝に職場に送っていくから泊まって欲しい」

なんて言われたら断れるはずもないから即答したけど、今はそれを後悔してる。

だってまだキスまでしかしてないんだよ!!!?

それがいきなりお泊り!

いや、まあ、その経験が無い訳じゃないけど……うん。

考えてみたら彼の周りには女優やアナウンサーとかの綺麗な人たちがいる訳で。

そんな人たちに比べたら自分は並みでしかなくて。

もし彼の歴代の彼女にそういう人達がいたら?

………言ってて虚しくなってきた。

そうだ!

もし飽きられる様な事があれば、明日帰っちゃえばいいんだ!!!!



彼と待ち合わせをして、食材を買って彼の家に。

元々自炊するらしい彼と一緒に料理をして、軽くお酒なんか飲んじゃったりして。

ほろ酔い加減でいい気分だけど、このままって訳にはいかない。

そんな時、機械音で『お風呂が沸きました』とアナウンスが。

「風呂どうする?」

御幸一也よ!

あんたは私の心が読めるのか!?

「えっと…入りたいかな。さっぱりしたいし」

が先入る?」

ちょっとまって!これって究極の選択じゃない!?

1.先に入る→後から入る湯船に見落とした私の髪やらが浮かんでる所に御幸君が入る→恥ずかしい

2.後に入る→髪を乾かしたり慌ただしい→また汗をかく可能性がある→汗臭いままで…

「えっと、あとで良いかな」

「んじゃ、お先~」

お風呂場のドアが閉まる音がして、改めて彼の部屋を見渡す。

来て直ぐはそんな余裕無かったし。

部屋自体はワンルームだけど、かなり広い。

そこにラグがあって多分冬には炬燵になるであろうテーブルに、大きめのベッドがあるだけ。

部屋にあるドアの1つは玄関、1つはお風呂場、廊下にあったのはトイレ、もう1つはスライド式だから多分ウォークインクローゼット。

改めて視線がベッドに行ってしまう。

シングル……ではなく、セミダブルかな?

いつもここで寝てて、今日は私も……恥ずかしい!!!!

いや、もしかしたら何もしないで寝るだけかもしれないし!?

それこそ布団敷いて寝るかも!?

色んな思考がグルグルしていると、ドアが開いて「次、どうぞ」と言われた。

私は急いで鞄から下着やら基礎化粧品の入ったポーチを持って行く。

近付くと彼は上半身裸でバスタオルを首に巻いている状態。

しかもボディーソープの匂いが妙に色っぽい。

バスルームの説明を受け、タオルやドライヤーなんかも用意されていた。

「ごゆっくり」と彼がバスルームから出て行って大きく息を吐き出した。

心臓が早鐘の様にガンガンしてるし、バクバクしてるし。

なんでこんなに緊張してるんだろうか?

初めての時より緊張してるかもしれない。

相手が人生で初めての彼氏と呼べる存在だったからか?

スポーツ選手との体験が初めてだからか?

どれにも当てはまらない気がする。

浴室に足を踏み入れると湯気が立ち上っていてクラクラする。

さっきまでここで彼がいたワケで……

シャンプーとかは持ってきてるけど、なんとなく彼と同じものを使ってみたい衝動にかられた。

それから体を洗って頭も洗って脱衣所に移動して基礎化粧をして髪を乾かす。

そして意を決してドアを開けると、御幸君はキッチンで水を飲んでいた。

「飲む?水が良い?スポドリが良い?」

「えっと…お水を」

「……はい」

冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルが出され、それを受け取った。

冷たい水が喉を通っていくのが分かる。

「んじゃ、寝ようか」

「あ、うん」

彼から出て来たその言葉にショックを受ける。

なんか、期待してた自分がめちゃくちゃ恥ずかしかった。

「って、言いたいけどゴメン」

と言われると同時に体が浮き上がる。

お姫様抱っこされてると分かったのはベッドに下ろされる瞬間だった。

ふわりとした感触を背中に感じると同時に、唇が塞がれる。

ついばむ様なキスから、普段した事も無いねっとりとしたセクシャルなキスに変わるのに時間はかからなかった。

「……嫌なら言って。今なら止められるから」

キスが止まって間近でみる御幸君の顔は、真剣そのものだった。

だから私は彼の頬を掌で包み込むようにしてキスをした。



2019/11/15