ドラッグ王子とマトリ姫

関大輔

風に乗せた君への想い

子供の頃、親が離婚をした。

母親は一人で生きて行けないのか、男がいないとダメなだけなのか、

頻繁に恋人が入れ替わっていた。

そんな親でも親は親、縁を切りたくても切れない血の絆。

その事を心底、腹の底から気持ち悪いと思う様になったのは中学に上がった頃だ。

母親の恋人の視線が気持ち悪くて仕方ない。

極めつけは高校1年の時の母親の恋人だ。

「親子の違いが知りたい」と言われて押し倒され、首元に男の息が掛かる。

丁度母親が帰宅して大事にならないで済んだ。

母親もその男とは別れたらしいが、すぐに新しい男が出来る。

けれどその男の視線が私に向くのが気に入らないのか、家に帰る日が減った。

母親がいない隙をみて男が家にやってくる。

玄関を開けなければドア越しに脅迫めいた事を言い出す始末。

母親に話をするけれど、何も変わらない。

母親も男に嫌われたくないのだろう。

親が変わらないなら私が行動するしかない。

そう思い立った高校二年の夏、私は退学届を出して家を出た。

本来であれば東京に向かいたい所だが、そんな金も無い。

電車を乗り継いで向かった先は京都。

修学旅行でしか来た事は無いが、大阪よりは女一人でもやっていけるような気がした。

最初に住み込みで働ける仕事を探したけど未成年で断られてばかり。

住まいを借りる事なんて出来ないしでネットカフェをはしごしていた。

親の金で借りていた携帯は置いて来たし、カフェで次のカフェを探してプリントアウト。

夜な夜なカフェを目指していると、道端に誰か座っている。

「大丈夫ですか?」

警戒心も無しに声を掛けたのは、身なりが綺麗だったからだ。

けど、その人は身なりだけでは無かった。

体育座りで足の間に埋めていた顔を上げた。

(綺麗な顔・・・)

サラサラの髪に 鼻筋が通っていて、目も切れ長で。

漫画に出てくるイケメンそのものだ。

けれど口の端が赤くなって、しかも切れている。

「・・・・・・」

ポケットからハンカチを出し、切り傷に当てる。

一瞬目を寄せたかと思ったら、その人は立ち上がって私の腕を掴んで歩き出した。

連れられて向かった先はラブホテル。

適当に選ばれた部屋に入り、ベッドに押し倒されて圧し掛かられる。

腕を固定され見下ろされた。

「警戒心足りないんじゃないか?」

自分でも何で逃げないのか不思議だ。

ここがどんな場所なのか知っているし、自分にはその経験が無い。

このまま彼が初めての男になるのだろう。

そこまで考えても自 分の中に「逃げなきゃ」と言う気持ちは沸いて来なかった。

「おい・・・」

「何で・・・貴方の方が泣きそうなの?」

「っ!!!!!」

私の言葉に彼の目が揺れる。

それと同時に自分を拘束する力が抜け、私は左手を上げて彼の頬に添えた。

彼が泣きたいのに泣けないでいる顔が、子供の様に思えたから。

彼の手が私の手に重なり、再びベッドに押し付けられる。

それと同時に彼の顔が近付いた。

キスをされ、大きな手が私の冷えた体を撫でてゆく。

自分でも聞いた事も無い甘い声が口から次々と出て行ってしまう。

再び彼が多い被さり2つの体が1つになる瞬間、思わず声を上げてしまった。

「・・・っつ!」

「お前・・・・・ ・」

きっと私が初めてなのが分かったんだと思う。

大きな掌が私の頬を撫でた。

「・・・・・・名前は?」

「・・・・・・

か・・・。俺は大輔だ。腕、俺の首に回して」

何も分からない私は大輔さんの言う通りにした。

すると甘いキスをされる。

「ゆっくり・・・するから」

早急だった彼の全てが、優しい物へと変わった。

それから彼に揺さぶられ続けた。




甘い時間が終わり、大きなベッドで大輔さんと横になりながら向き合う。

大きな手が伸びてきて、私の頭をゆっくりと撫でる。

「・・・悪い」

「・・・・・・いいえ」

大輔さんがゆったりした口調で私について聞いて来た。

私は17で、家を出て来た事。本当は東京に行きたかった事。

大輔さんは私より4つ年上な事。

詳細は知らないけど、やっぱり家がゴタゴタしてる事。

けれど私は体の疲れと精神的疲労で眠ってしまった。




朝起きてホテルを出る。

途中のファミレスでお朝ごはんを奢って貰った。

そして駅まで来ると、「ちょっと待ってて」と大輔さんが発券機に向かう。

少しして戻ってきた彼の手には切符があった。

それを私に差し出してきた。

「8時過ぎの新幹線」

「え?」

「これくらいしかしてやれない」

「大輔さん・・・」

「東京行っても、馬鹿な真似だけはするなよ」

「・・・・・・色々ありがとうございます」

「・・・・・・元気で」

「はい。あの、行ってください」

「・・・・・・わかった。それじゃあ」

「大輔さんもお元気で」

大輔さんが私に背を向け、歩き出す。

私は彼が見えなくなるまでそこ立ち、切符を握りしめた。

彼がくれた大きなチャンス。

私も彼が去って行った方に背を向け、改札をくぐった。

いつか、恩返しが出来れば良いなと思う。

それが叶うのは、まだ先の話。


2017/04/06