ドラッグ王子とマトリ姫
キスは契約違反です
*ここに登場しているモニカは『キスシチュエーション編 with渡部』に出ている素敵な女性です。
「、受付から」
カタログ室から目的の物を手にして戻ってくると、私のデスクに先輩がいて電話で受け答えをしていた。
その受話器を受け取り耳に当てる。
「了解でーす!はい、です」
『受付の四宮です。こちらに今大路様と言う方がお見えです。アポは無いそうですが、いかがいたしましょうか?』
すると受付嬢の滅多に聞かない余ったる声が来客を教えてくれる。
今大路という名前は一人しか思い当たらないが、来られる覚えも無い。
「わかりました。今から向かいますのでお待ちいただいてください」
それだけ伝え、電話を切る。
「お昼出てきます」
自分の鞄を持って、受付に向かった。
受付嬢に彼がどこにいるかを聞き、そこに向かう。
ウェルカムラウンジのソファに座るひと際目立つ彼。
向かい側に腰を下ろしながら「こんにちは」と挨拶をした。
「お忙しいところ申し訳ありません。少しお話があるんですがお時間頂けないでしょうか?」
久しぶりに見るけど変わらずの爽やかイケメンだ。
爽やかで丁寧な口調とは裏腹、本当の彼は口が悪くて性格も悪い。
「これからお昼なのでその時間で終わる話でしょうか?」
「さんの返答次第です」
にっこり微笑まれて背筋に悪寒が走るのは、この人と話してる時だけだと思う。
さっさと終わらせたいから「では、いきましょうか」と腰を上げた。
「今大路さんお昼はお済なんですか?」
「いえ、まだです。さんにお付き合いしますよ」
と言われたので話も出来て静かな店を考える。
ランチタイムは終わったからザワザワした雰囲気は無いだろう。
とりあえず仕切りとランチメニューのあるイタリアンレストランへと向かった。
ランチを頼んで水を一口飲み「それで?」と話を切り出す。
「さんは、せっかちですね」
「・・・・・・(怒)」
イケメン爽やかフェイスでニヒルにほほ笑まれても。
この人が腹黒で口が悪いのは知っている。
それでも変わらない彼にいら立ちしかわかない。
そもそも彼と出会ったのは私の仕事相手が麻薬で逮捕された縁なのだ。
そこからしばらくして捜査途中の彼を見かけ、たまたま相手を口汚く罵ってたのを目撃してしまった。
ここまで徹底した仮面というのも、ある意味尊敬に値する。
「ランチ食べたら行きますよ?」
「落ち着いて飯も食えねえのかよ」
「わざわざ文句言いに来たなら帰るけど?」
「ランチも食わずにか?」
「仕方ないんじゃない?あんたと食べたい訳じゃないし」
「そうかよ。んじゃ、本題。俺のオンナのフリしてくんない?」
「お断りします」
「即答かよ」
「面倒くさそうだもん」
「もんとか言うな」
「んじゃ、面倒だから嫌」
「俺のオンナになりたいヤツなんざ、ごまんといるぞ?」
「じゃあ、その女の子達に頼めば良いんじゃない?」
「……」
「出来ないから私の所に来たんでしょ?言い方ってもんがあるじゃん?」
「良い度胸だな」
「だからさんは嫁に行き損ねてるんですね」
「やっぱ帰る」
「分かった分かった。何が望みだ?」
丁度ランチが運ばれてきて、話は一時中断した。
けれど時間には限りがあるから、パスタを食べながら話を切り出した。
「シュン!!」
大きな声で彼の名前が呼ばれ、美魔女が彼に抱き着いた。
「お久しぶりです、ミセスフォント」
「モニカって呼んでって言ってるじゃない!つれない……あら?」
「紹介します。恋人のさんです」
「は、初めまして…」
「もう!シュンってばどこで見つけたの?素敵な彼女じゃない」
「あ、ありがとうございます…?」
「良い事思いついたわ!今から買い物に行きましょう!あなたに似合いそうなドレスがあったの思い出したわ」
「ダメですよ、彼女の身に纏うものを買うのは僕の役得なんですから」
「あら、そんなに愛してるのに結婚しないの?」
「彼女がyesと言ってくれないんですよ」
「あら、そうなの?焦らすのは良い女の特権ね」
と、英語で会話できたのはここまで。
彼女の英語がネイティブ過ぎて聞き取れないし、彼もペラペラで早口だし分からない。
彼に腰を抱かれ、頭にキスが落とされる。
順を追って頭を整理すると……今現在私は今大路さんと恋人の関係。
で、このモニカさんって言うのは経済協力開発機構のお偉いさんの奥様で。
美魔女で日本のイケメン男子が大好きで、今大路さんはそのお気に入りの一人で。
いつまでも彼女がいない、結婚しないでモニカさんが煩いから偽りの恋人が必要だったとか。
彼女のパーティーに招待されたので、恋人と一緒に参加という図式だ。
レンタルドレスに美容室は彼持ちで着飾った私は彼の隣にいるワケだ。
「大丈夫ですか?さん」
「ちょっと休憩したいです」
「庭に出ましょうか」
豪華な建物の横にある立派な庭へと出る。
人が少ないので備え付けのテーブルセットに腰を下ろした。
「飲み物持ってくる」
私を座らせて彼が飲み物を取りに室内へ行き、グラスを持って戻ってきた。
グラスを受け取って喉を潤し、一息ついた。
緊張していてわからなかったが、背後には立派なバラ園がある。
「このバラ園も入っていいの?」
「さんも女性らしさがあるんですね」
「うるさい」
立ち上がって移動しようとしたら「ほらよ」と彼が私に腕を差し出した。
恋人らしく捕まってろって事らしい。
「すごーい…」
そこには子供の頃に女の子が一度は憧れるバラのアーチが。
上を見て歩いていたら小石に躓いたと思ったら「危ないっ」と彼に支えられた。
「あ、ありがとう」
「さんも花を見て浮かれるなんて可愛らしい一面があったんですね」
「う、煩いなー」
「褒めてるんですよ」
「褒められてる気がしません」
「それなら」
低い声と一緒に腰に添えられてた腕に力が籠る。
そしてグイっと抱き寄せられ、彼と抱き合う形になった。
「ドレス、脱がしたいと思うほど似合ってますよ」
「ちょっ!それってセクハラっ」
「今は恋人ですから」
近付いてくる整った顔。
思わず目を閉じると額に温かい感触が。
ぎゅっと瞑った目を開けると、ニヤリと笑った顔が見えた。
「キス、されると思った?」
「ちがっ!んっ…!!!」
反論しようとした矢先に塞がれた唇。
「ちょっ!誰も見てないのに!」
「見てる時にするもんでもないだろ」
「そうっ…んっ……」
首の後ろを抑え込まれ、角度を変えて何度も唇が重なる。
口は悪いのにキスが優しいなんてズルイ!
抵抗しようとした唇も、手も、彼に囚われてしまった。
2018/09/13