ハイキュー!!
valentine2017
「ねえねえチャン、チョコ欲しいんですケド」
休み時間になるとやってくるデカ男の名を黒尾鉄朗と言う。
そしてデカイ図体で私の机の前にしゃがみこみ、下から私の顔を見て強請ってくる。
「義理しかあげない」「それは却下」
とか訳の分からない事を言うのだ。
これを毎休み時間毎にやられるのは、たまったもんじゃない。
最初は周りも「いや~ん」とか「が羨ましい!」だった雰囲気も、
「また来てるよ」「懲りないね」「そんなに欲しいんだ」みたいになった。
決してニブくはないこの男が・・・気にもしてないのか?
「ていうか、14日って三年は登校日じゃないじゃん」
「だからデートすんだろ?」
「はぁ!?何それ!!!!」
思わず立ち上がって抗議をするも、黒尾は立ち上がって「じゃあな~」と手を振って出て行った。
「ちょっと海!なんなのアイツ!!」
振替って2つ後ろに座る海信行に声を掛ける。
「諦めろ」それだけ言われた。
諦めろって言われても・・・
そもそも黒尾の事は良いなと思っていた。
話しやすい案外気が利く男だ。
そして厳しい事もあるけど優しい人。
でもそれは私にだけじゃない。
勘違いしてはダメなんだ。
だから去年の三学期には少し距離をおいていた。
三年になってクラスが離れ彼の姿を見ないで済む事にほっとした。
「黒尾にやるの?チョコ」
帰ろうと荷物の準備をしていたら、横から声がかかる。
横を向いたら丁度腰の位置で、顔を上げると同じクラスのがいた。
「俺もから欲しいんだけど、本命チョコ」
「え?」
「じゃあな」
・・・・・・・・・・・・は?
何?今って『チョコ頂戴ゲーム』でも流行してんの??
「ちょっとってばモテ期?」
今度は親友のだった。
「いやいやいや。嫌がらせかゲームじゃん?」
「そう?黒尾にしてもにしてもモテる二人だよ?チョコなら腐るほど貰うっしょ」
はサッカー部のキャプテンで、黒尾同様にモテる存在だ。
「え?ドッキリなのかな?新聞部かなんかの卒業ドッキリ」
「ドッキリだとして、あんた驚かせて何が楽しいのよ」
「デスヨネ」
「ま、どっきりじゃなくて二人が本気だった時の事を考えなさいよ。次の登校日はバレンタイン前日だし」
「ただのゲームか何かだよ」
「・・・・・・まあ、がそれでいいならいいけど」
そして学校を後にした。
週末になり、父親と友チョコを買い物に出掛けた。
月曜になり、今日も黒尾は来るのだろうか?
毎時間攻め込まれてもな・・・
改札機に定期をかざし、機械を通り抜ける。
するとそこに黒尾がいた。
「話があるんデスケド。一緒に行かない?」
「いいけど・・・」
学校まで一緒に行く事になったのはまだいい。
並んで歩いていると擦れ違う女の子が彼を見て行く。
確かに全国大会まで行ったし、モテるよねぇ・・・
「なあ、本命チョコが無理ならさ、明日時間欲しいんだけど」
「なんでそんなに必死なの?」
「明日になったらな。明日、10時にの最寄り駅で」
それだけ言って彼は走って行ってしまった。
その後、クラスに来る事も無く、登校日を終えた。
翌日、何度も着替えて何度も鏡を見て家を出た。
一方的な約束とはいえ、黒尾との待ち合わせだ。
間に合う様に家を出て、駅に向かう。
ターミナルに足を踏み入れると、駅の所に大きな人影を見つけた。
すると彼は私に気付い手をあげる。
私は彼に近付いた。
「おはよう。待たせてごめん」
「おはよ。まあ、俺が呼んだんだし?時間通りじゃん」
「でも待たせた事にかわりないし」
「まあ、そうなんだけど。つーか、今日って時間ある?」
「特に用事はないけど」
「んじゃ、俺とデートって事で」
「いやいやいや」
「じゃあ、とりあえずどっか入ろう」
手を引かれてて近くのファミレスに入った。
まだ昼には早いし、ドリンクバーだけを注文。
お互い温かい紅茶を選んで席に戻る。
ティーバックをソーサーに乗せ、砂糖を入れて混ぜる。
「あのさ」
「ん?」
黒尾が自分のバッグをゴソゴソして、ラッピングされたものを取り出して私に渡す。
とりあえず受け取るけど・・・これってチョコ、だよね。
「場所に色気が無いのは自業自得だからな」
「え?」
「だから、マジで好きナンデスケド」
「は?」
「なのでボクとお付き合いしませんか?」
「な、何、急に」
「本当はの受験終わったらって思ってたけどな。俺らの大会あったし。と仲良いし」
「え?」
「本当に焦ったっての」
「いや、でも・・・」
「なに?」
彼の眼は真剣そのもので、茶化す雰囲気じゃないのは分かった。
あぁーーーごめんよ、親友!!!!
あなたの言う通りでした!!!!
肘をついて顔を隠す。
恥ずかしくて嬉しいのか何なのか分からなくなってきた。
「?」
「ごめん、ちょっと待って。現状整理中」
「俺の事嫌い?」
「いや、好きだけど」
「じゃあ、良いじゃん」
「はぁ!?なんか軽くない?」
思わず両手でテーブルをドンと叩く。
「やっと顔を上げたな。何が問題?」
「え?」
「付き合うのに踏み込めないんだろ?」
「えっと・・・」
「・・・・・・」
黒尾は私を黙って見ていた。
私が何か言うのを待ってる様に。
いや、待ってるんだろうけど。
「私、多分ヤキモチ妬きだよ。孤爪君に嫉妬するくらい」
「え?研磨?」
「そう・・・」
「ふーん・・・」
真剣だった彼の顔が、ニヤリと笑った。
そして手が伸びてきて、私の手と重ねて指を絡めて来た。
「嫉妬しなくてすむくらい愛してやるよ」
「なっ!!!!」
この男、恥ずかしげもなく言いやがった!!!!
何で言われた私の方が真っ赤なんだ!!!?
「は、恥ずかしくないの!?」
「なにが~?」
反対の手で頬杖を付いてニヤニヤしながら私の手をなでなでしている。
ちょっと待って!
この男と付き合ったら恥ずかしい台詞言われるのに耐えられるのだろうか?
「大丈夫大丈夫」
「なにが!?気持ち読んだの!?」
「いやいや。が不安になる事は1つずつ取り除いていくからさ」
「・・・・・・」
「と言うわけで、初デート行くか」
私の手を取り立ち上がらせる。
上着を着て荷物を持って店を出た。
改札をくぐって電車に飛び乗る。
私はドア横の手摺に寄りかからされ、前に黒尾がいる。
ここで告白したら、黒尾は驚くだろうか?
彼の上着の胸元を軽く2回引っ張り、彼の胸に額を押し付けた。
「ん?」
私の声を聞こうと彼の顔が下げられるのが分かる。
電車の音に紛れてしまう小さな声を出した。
「・・・・・・・好きだよ、鉄朗」
すると音にかき消されず声が届いたのか、手摺を捉まってた腕が私の腰に回されて抱き寄せられた。
「こんなとこで言うなんて反則だと思うんですケド」
「だって!!」
抗議の為に顔を上げると、すかさずキスをされた。
「俺の方がの事好きだよ」
「ちょっ!電車の中!!」
「どうせ俺のガタイで見えねえよ」
確かに私の体はスッポリ隠れているだろう。
そんな安心感からか、再び重ねられる唇を静かに受け止めた。
2017/02/01