ハイキュー!!

黒尾鉄朗

さようならの時間だね2

何で自分が走り出したのか理解出来ないままテーマパーク内を走っている。

擦れ違う人が俺を振り返るのも無理は無い。

大の男が一人で必死に走っているんだから。

迷子を捜すにしては若すぎるだろうしな。

逆の立場なら訝し気に思う。

「……はぁっ…はぁっ……クソッ!」

が走り去ってすぐに追いかけてれば追いついただろう。

すぐに行動しなかった自分に腹が立つ。

(もう園を出たのか?)

むやみやたらに走り回っても仕方ない。

一度足を止め、彼女との会話を思い出す。

(………そういえば!)

ナイトパレードが見たい言っていたのを思い出す。

考えが纏まるより先に、足が動き出していた。



パレードが行われるエリアへ足を向けるけど、そのエリアだって狭くはない。

既に人が集まっているし、そこをかき分けて進んで行く。

「どうせなら前で見たい」

そう言ってたの事だ、もう既にどこかにいるだろう。

「すいません」と言いながらかき分けて進んで行くが、人の多さにうんざりしてくる。

(いた!)

自分とは道を挟んだ反対側にを見つけた。

「……っ!!!?」

けれどは1人じゃなかった。

隣には男がいて言葉を交わした後、その男の肩に額を乗せた。

それを見た瞬間、自分の体の中の血が沸騰する様な感覚に陥った。

それからどうやってそこまで行ったのか覚えてないけど、気が付くとの腕を掴んでいて、驚いた顔をしたが俺を見ていた。

「て、鉄朗?」

「……」

?……君は…ああ、に何か用?」

そう言っての隣の男は彼女の腰に手を回した。

「ちょっ、くん!?」

「振った女を追いかけてくる意味が分かんないし」

「……はは。それで?私何か忘れものでもしたかな?」

「話があるんだけど」

「今?」

「おいおい、これからパレードあるだろ」

「もう、くん!大丈夫だから。じゃあ、話せる場所に」

まだ何か言いたそうな男をなだめる様にして、人混みを掻き分けて集団から抜け出す。

彼女の後を追う様にして、道1つ向こうへと移動する。

人はいるけどパレードに集中してるからか、話すには苦労しなさそうだった。

「それで……話って?」

人気の少ないベンチに座り、が俺を見上げる。

薄暗い中でも彼女の瞳が少し赤いのが分かる。

そんな顔が見たかったわけじゃないのに。

「さっきの男は?」

「……鉄朗に関係ない。それより話って?」

【関係ない】って言葉が胸に突き刺さったような気がした。

もう俺とは関りがないと突き放されたような。

実際にはそうなんだけど。

「別れるってのを撤回したいんだけど」

は一瞬目を見開いて、その目を閉じた。

目を開くと同時に「無理だよ」と。

「この一月の間、鉄朗を忘れる努力をしてきたんだよ。やっぱり寄りを戻しましょう、はいそうですかって訳にはいかない」

「それってもう、さっきの男がいるからか?」

「っ!!!?そう思いたいなら思えばいいよ!もういいでしょ!」

が立ち上がって背を向けて歩き出そうとするのを引き留め、腕に抱きしめる。

「ちょっ!?」

「いくな」

「はなして!」

「行かせない」

の顔を上に向かせ、強引に唇を重ねる。

「……ずるいっ!」

「知ってる」

何度もキスをしているうちに、キスがしょっぱくなっていく。

それがの涙の味で、自分が流させたんだと反省もした。



「バカてつろう……」

「はいはい」

「けんまくんの爪の垢でも煎じて飲みなさい」

「はいはい」

さっきから手を繋いで(手を引いて?)歩きながらが俺に対する不満をぶちまけている。

「それでさっきの男は誰?」

「元カレ」

「え?マジで?」

「嘘。幼馴染」

「わざわざを迎えに?」

「まさか。彼女と一緒。彼女は私の親友」

「……」

「なに?」

「いや、の事、あんまりわかってなかったんだなって」

「反省しなさい」

「はいはい」

そして彼女の家に着くまでの間、彼女の事を色々と知る時間となった。

2019/08/16