ハイキュー!!

黒尾鉄朗

さようならの時間だね

高校からの付き合いで、いたって平凡な付き合い。

デートして、食事して、SEXをするだけの関係。

2大欲求である食事は好みが結構似たり寄ったりだし、体の相性も悪くない。

と付き合い出してから他の女とシテないんだから比べる事は出来ないんだけど。

「別れたいんだけど」

居酒屋で向き合ってする話じゃないのかもしれない。

目の前に座るは一瞬目を見開いて俺を見た。

「そっか・・・」

「怒んないの?」

「そんな気はしてたから。1つだけお願いがあるんだけど」

「何?」

「一か月だけ時間をくれない?別れるなら笑って別れたいから」

惚れて付き合った女の頼みを無 下にする つもりもない。

どうせなら泣き顔よりは笑顔、その気持ちは理解出来たから提案を受け入れる。

最初の二週間は今まで通りだった。

お互いの家に行き来したり、外で飯を食ったり。

「最後のデートに夢の国に行きたい」

「珍しいな。あんまり好きじゃなかったよな」

「そうだけど。まあ、最後のデートだし?って思って」

「良いよ」

そうして恋人としての最終日に、夢の国でのデートが決まった。

途中の駅で待ち合わせて一緒に向かう。

最初にショップに入り、頭に付ける飾りを買う。

良い歳こいた大の男がと思いつつも、俺だけじゃない事に安堵する。

そして手を繋いでテーマパークを回る。

アトラクションに乗り、時折キスをするのは俺達のデートでは当たり前だった事だ。

キスをして唇を離すと、ふわっと笑うを見るのが好きだった。

今日のは、付き合い出した頃の様で可愛いな。

ん?違うか。俺の気持ちがフラッシュバックしてるのかもしれない。

とにかくトイレと昼飯を食ってる時以外、手を離す事をしなかった。

付き合い始めの頃、はぐれたく無くてそうしてたのを思いだした。

これが新鮮味ってヤツなのか?

そんな事を思っていたら、が立ち止った。

そこがトイレの近くだったのもあり、俺は手を離した。

けれどはおもむろに猫耳の形をしたカチューシャを外す。

そしてにっこり笑って俺を見上げる。

「ねえ、鉄朗」

「ん?」

「今までありがとう」

「え?」

「一緒に帰っちゃうと辛いから、ここでバイバイしよう」

?」

「鉄朗が大好きだった。幸せな時間をありがとう。元気でね?」

が手を振って走り出す。

あまりにもあっけなく訪れた別れ。

頭に被っているキャラの帽子を脱いで近くの壁に寄りかかる。

目の前を楽しそうに過ぎていくカップルや家族連れをしばらく眺めていた。

ついさっきまで俺も同じようにしてたのに。

先に別れを切り出したのは俺の方。

これは望んだ別れだった。

何気なく過ぎていく日常を退屈に思っていたのに。

自分の気持ちが変わるだけで、相手への想いも変わるのに。

自分がすべきことをのせいにして傷つけてしまった。

間に合うか分からないけど、が向かった方へ走り出した。


2017/05/25