ハイキュー!!

黒尾鉄朗

結婚しようか

誕生日の前日に届いた『明日飲もうぜ』のメール。

嬉しいのか悲しいのか複雑なものだ。

普段から飲みに行く事はあるので、いつも通りの誘いだろう。

けれど私の脳内に浮かんだのは・・・




「いらっしゃーい」

店に足を踏み入れれば、寿司屋の小気味いい親父の声。

待ち合わせ相手の名前を告げると、小上がりの座敷に案内された。

「よっ」

「早かったね」

ヒールを脱いで座布団に座る。

運ばれたおしぼりとお通しが置かれ、ビールを頼んだ。

すぐに運ばれたビールジョッキを持つと、相手もジョッキを持ち上げた。

「誕生日おめでとさん」

「覚えてたんだ」

「まあな」

カチンと音がして、中身を煽る。

すると先に来ていた黒尾が注文していた刺身が並ぶ。

「わお・・・中トロ?」

「誕生日だからな。、奢ってやる」

「やった!いただきまーす」
小皿に醤油を入れ、ついでに黒尾のも入れてから箸を手にする。

脂ののった切り身にワサビを乗せ、醤油を少しつけて口に運ぶ。

「ん~~~美味しい!」

「それはヨカッタネ」

「うん!そういえば今日、研磨くんは?」

「ん?仕事」

「そうなんだ・・・・・・食べないの?」

「ん~腹は減ってないんだよな。あ、日本酒の冷でコレ持ってきて」

「食べないと酔いが回るの早いよ?」

「そうなんだよな~」

いつもの黒尾らしくなく、なんとなくかわされる会話。

様子がおかしいので話題を変えれば、いつもの様なノリになる。

刺身に茶碗蒸しに味噌汁に握り、一通り堪能して上がりを頼む。

・・・」

「ん?」

黒尾を見れば、小さな袋が差し出される。

それを受け取ると、小さなリボンの付いた箱が入っていた。

しかも、有名なブランドの。

「もしかして誕生日プレゼント?」

「まあな」

「開けて良い?」

お猪口を口に当てながら頷かれたので袋から箱を取り出す。

リボンをほどいて包装紙を剥がす。

そして蓋を持ち上げると・・・・・・指輪が入っていた。

「ちょっ!これ!!」

私の手の中にあるのはダイヤの指輪だ。

黒尾は慌てる私をテーブルに肘をついてニヤニヤしながら見ている。

「約束したろ?」

「・・・・・・覚えてたの」

「あいにく、記憶力は良いほうなんで」

あれ は10年前の事だ。

高2の時、席が近い私達は友達も交えて良く話していた。

その時に「10年経ってお互い独身だったら結婚でもする?」と言われた。

あの頃の私は27歳なんてオバサンで、その年まで独身だったらと恐怖を覚えた。

27なら1年付き合って結婚して30までに子供が産めると。

昨日メールを貰った時にこの事が過った。

でも「まさか」って気持ちが大きかったのだ。

「もしかして・・・・・・緊張してた・・・とか?」

「ん?まあな。でも昨日のメールで男がいないのは分かったし。もしかして俺からのプロポーズ待ってた?」

「黒尾は忘れてると思ってた」

「有言実行なのに」

「うん・・・」

彼の大きな手がすっと伸びてきて箱を奪われた。

すると長い指が指輪を持ち上げ、私の左手が取られる。

「結婚しようか」

「それもいいかも」

薬指に嵌るダイヤモンド。

指輪を眺める様に開いた手に彼の右手が絡んでくる。

きゅっと握られた手を、私も握り返して答えた。


2016/12/28