ハイキュー!!
誕生日2018
10月末と言う中途半端な時期に行われる文化祭。
受験生だけどこの日ばかりは!と友達と楽しんでいた。
文化祭が終わると今度は後夜祭。
今年は某アイドルグループがテレビでやってるのに似せた「音駒生の主張」なる物が本日のメインイベント。
屋上から思ってる事を話してるんだけど、面白くて仕方がない。
『それではトリを務めるのは、この方です!』
『3年5組黒尾鉄朗です』
その途端、女子は色めき立ち、男子はなぜか盛り上がっている。
彼と同じクラスになった事はないけど、体育祭等で目立つ人だ。
背も高いし、顔も悪くないから女生徒からもモテてるらしい。
大人びて見えたのに、合同体育で見せる「うぇーい!」等と相手をからかう子供っぽさを兼ね備える人だった。
そのギャップが良いなと密かに思ってはいるけど、告白するような【好き】とは言えなくて見ているだけ。
バレーを頑張ってるのも噂で聞いてるし、決意表明かな?なんて思っていた。
「オレにはー好きな人がいまーす」
(へぇ……恋愛してるんだぁ)
意外だなって思ってる自分と、周りの反応は黄色い悲鳴だったり冷やかしだったりと様々だった。
男子なんかは「だーれー」とか言ってるし、女の子は泣きだす子までいる。
良くも悪くも目立つ人だ。
「3年6組のー…サン」
3年6組って私と同じ……え?
顔を上げると同時に、周りも騒ぎ出した。
隣にいたなんか、バシバシと私の腕を叩いて「ちょっと、だって」と痛い。
周りの生徒からも注目されるし、視線で殺されそう!
「一年の頃から好きです。まだ大会も受験もあるけど、俺と付き合ってくださーーーい!!!!」
その瞬間、冷やかしと悲鳴が入り混じった。
「ちょっ!あの黒尾からの告白!!!!」
とにかくこの状況から逃げたかった。
かといって断れる感じでも無いので……とりあえず頷いといた。
それから降りてて来た彼と少し話して連絡先を交換して別れた。
あれからというと、特別何もなかったりする。
私は受験で塾に行ったりしてるし、彼は大会が控えてるから部活があって時間が合わない。
その代わりというか、あれからメッセージのやり取りはする様になった。
毎日届くメッセージは『今日も疲れた』とか、『メンバーと夕飯なう』とか日常的な物。
それでも好きな人からの一言であれば嬉しいなんて、自分の中にもまだ乙女心があったんだなーと思う。
けれど日が経つにつれ、『これって彼女っていえるのかな?』と不安になってきた。
そんな思いが通じたのか彼からのメッセージが『今度の土曜って会う時間無い?』だった。
家で勉強してるだけだと伝えたら『練習試合があって、その後に会いたい』と言われた。
「え?」
予想もしてなかった文章の変化に思わず声が出る。
(あ、会いたいって言われた!!!!)
なんて浮かれてる場合じゃない。
既読の文字は付けちゃったし、早く答えないと……なんて?
分かった…じゃ、味気ないし……
(予定は無いから大丈夫です)
それだけ返すと、待ち合わせ場所と時間が返ってきた。
あのメッセージから洋服を引っ張り出して「あの時カラオケにいかなければ洋服買えたのに!」と後悔しながら選んだ服を着て家を出た。
「可愛い」とか「綺麗」って思える容姿はしてないけど、並んで歩いて恥ずかしいとだけは思われたくないから化粧も頑張った。
早めに到着した駅ビルで最後のチェックを済ませて待ち合わせ場所へと向かった。
そこには既に彼がいて、私は駆け寄ろうとして足が止まった。
黒尾君の前には女の子が数人いて、ラッピングされた物を渡そうとしていたから。
差し出されたギフトを手を横に振って受け取らないでいると、女の子が泣き出して彼が慌てたのが分かる。
それから何か話してため息をつき、そのギフトを受け取った。
「よう、」
私がいるのに気が付いた黒尾君が私を見てそう言った。
「悪いけど彼女が来たから。これ、サンキュー」と言って彼が私の所まで来た。
「悪い、待たせて」
「え?いや、来たばっかりだし……誕生日?」
ラッピングされた袋に付いてたシールに掛かれていた文字はhappy birthday。
「そう、今日、ボクは18歳になったんです」
「え?」
「だから、少しでも良いからチャンの顔が見たかったんです」
「………」
「あれ?引いちゃった?」
「ちがっ!誕生日知らなくて……」
「ああ、そういう事か」
「ら、ら、来年はちゃんと準備するから!」
「………」
彼氏の誕生日知らないとかありえない!
付き合える事に浮かれすぎて、基本情報収集しないなんて恥ずかしい!!!!
返事が無い事に恐る恐る顔を上げて彼を見る。
すると驚いた顔をしていた。
と、思った瞬間に腕を引かれて数歩移動すると、ぎゅっと抱きしめられた。
(えーと……えぇーーー!!!!?)
彼に抱きしめられてると自覚した瞬間に顔が真っ赤になったのが分かった。
耳からは彼の鼓動も聞こえてくる。
自分の鼓動と同じように少し早い音。
「はぁ……やべえ」
「黒尾君?」
「来年って事は後1年は付き合ってくれるんだよな?」
「へ?えーっと……え?別れるの?」
「俺から別れる気は無いけど?大々的に告ってるんで」
「あーうん…」
「どうせなら2年も3年も10年でも祝って欲しいんだけど?」
「じ、十年!?」
「俺はがシワッシワの婆ちゃんになっても祝いたいと思ってますケド?」
「そんなに!?」
「それくらい好きだってこと」
「……」
顔が見えなくてよかった。
絶対に恥ずかしいレベルで真っ赤のはず。
「……?」
「えっと……誕生日おめでとう、鉄朗」
頑張って彼の顔を見ながらそう言うと、驚いた顔をした彼が見えて真っ暗になった。
その瞬間に唇に温もりが。
一瞬だったのか10秒くらいだったのか分からないけど、光が戻って唇が離れて行き再び抱きしめられた。
「ありがとう。サイコーの誕生日になったよ」
そう言って微笑んだ顔が優しいもので、本当に嬉しそうなのが分かって泣きそうになった。
2018/11/19