ハイキュー!!
初めてのお泊り
「どうしよう・・・」
呟いてみた所で状況は変わらない。
付き合い始めて1か月、社会人であれば長い方なのだろうか?
いつもの様にデートをして、帰ろうとした時に「俺ん家来ないか?」と言われた。
『彼氏の家にお泊り』は初めてでは無い。
前の彼氏とかの家には泊まりに行っていたし、肌を重ねる事が初めてでもない。
だけど今の彼氏である黒尾鉄朗とは初めてなのだ。
今までのデートで恋人繋ぎをし、隙あらばキスをされるのもしばしば。
人が多い時には腰を抱かれたり肩を抱かれたりもした。
けれど私を抱き寄せる手に『性欲』って文字を感じさせた事が無かった彼。
セクシャルな事を感じさせない彼が見せた欲に戸惑っている。
勝手に『スキンシップがあれば良い人』ってレッテルを貼ってしまっただけの事。
成人をとっくに過ぎた男女なら当たり前の行為。
何故だか初めての時より緊張してるかもしれない。
絨毯にペタリと座り、耳元でブオーっと音を立てるドライヤー。
「お前・・・風が当たって無いぞ?」
「え?」
声がしたと思ったら、ドライヤーが取り上げられた。
私の背中にあったベッドに彼が座り、後ろから風が当たる。
「今まで何してたんだか」
ちょっと呆れた声と一緒に大きくて温かな手が、私の髪を掬い撫でてゆく。
鼻歌が聞こえるのは、幻聴ではないだろう。
「きもちいい・・・」
思わず口から出た言葉。
同時に止まった彼の指。
カチって音と共にドライヤーが静かになった。
「こんなもんか」
「鉄朗は?」
「俺は短いからすぐ乾くしな」
コンセントを抜き、くるくるっとコードを纏めテーブルにドライヤーを置く。
「んじゃ、寝るか。ベッド狭いし、お前奥な?」
「あ、うん」
ベッドに押し込まれて横になると、彼も同じようにして横たわる。
ファサっと布団がかけられ、体がくっつく。
ばっと視界が遮られたと思ったら頭を少し持ち上げられ、首の所に彼の腕が入り込んで来た。
私は体を寄せ、腕の付け根あたりに頭を乗せる。
昔付き合った男性から「ここじゃないと腕が痺れる」と言われたからだ。
密着してない体でも、彼の体温が伝わってくる。
彼の様に穏やかで、眠りを誘う温かさだった。
「なあ・・・」
「んー?」
「もしかしてさ・・・。腕枕初めてじゃない?」
「え?」
微睡んでいた目が一気に覚める。
「いや、まあ・・・それは良いんだけどさ」
「?」
「はぁ・・・自分は良くて相手はダメって、どれだけ心が狭いんだよ、俺」
「どうしたの?」
「あのさ・・・・・・このまま眠らないでも良い?」
「え?」
「本当は何もする気無かったんだけどな」
不本意極まりないと言わんばかりの言葉に顔を上げる。
すっと彼の手が伸びてきて、私の髪を耳に掛けた。
「が今まで付き合ってきた男に嫉妬してる」
「鉄朗・・・」
「自分だって付き合った女はいたけどな。というか、歴代の彼女にこんな感情もったことねえわ」
いつものニヤニヤした顔じゃなくて、ちょっと引きつった表情の彼。
不本意極まりないって表情は、お目にかかったことが無い。
だから彼以上に私の中のキャパシティーがオーバーする。
自分にだって余裕なんて無いんだ。
もし前の彼女より彼を満足させてあげられなかったら?
失望されたらどうしよう。
そんな事しか頭に無かった。
「これからは・・・私しか知らない鉄朗を教えて」
「・・・・・・煽ったのはだからな」
私の背中全部がベッドに付く。
それと同時に唇が塞がれる唇。
いつもと違い荒々しく、でも優しさを残した唇。
息が詰まりそうになるほど絡められた舌に鼓動が早くなる。
自然と上がる声と体温。
彼の唇と手に煽られ、感情が高ぶってゆく。
私のナカに入り込んだ彼の熱が、突き上げられるスピードと共に何も考えられなくなる。
私の上でキリっとした眉を寄せ、腰を振る彼が愛おしくてたまらない。
彼の首に抱きつけば背中を支えられ、真っ白な世界に放り投げられた様だった。
息が荒く、汗ばんでいる体。
本当ならシャワーでも浴びたい所だけど、きっと戻ってこれないくらい疲弊している。
そして再び、私の首の下に腕が入り込んで来た。
彼の腕に頭を乗せ、上下する厚い胸板を見ていた。
呼吸を整える様に、私の髪が彼の指に梳かれている。
「なあ・・・」
「ん?」
「もう1回シていい?」
「え?」
ちょっと待って。
今、終わったばかりだよね?
あれこれ考えていたら、またベッドに寝かされた。
そして太腿の辺りに彼の・・・
「いい?」
「えっと・・・」
「明日休みだし、足腰立たなくてもいっか」
そして明け方近くまで、私は寝る事が出来なかった。
2016/11/04