黒子のバスケ

青峰大輝

すっぽり包まる

春一番が吹き荒れたと思ったら、一気に気温が下がる日がある春。

そんな日は仕事帰りに一杯立ち寄りたくなるもので、高校時代の悪友と言う名の親友と待ち合わせをする。

私も彼女もワインやカクテルよりも日本酒やハイボールを好む為、居酒屋や焼鳥屋に行くことが多い。

「で?年下のカレシとは続いてるの?」

「ん?んーとりあえず」

「曖昧だな」

「頻繁に会ってないからね」

「海外?」

「そうらしいよ」

「聞いてないの?」

「詳しくは」

恋人である青峰大輝は我が社のバスケットチームに所属していて、ついでに全日本メンバーでもある。

部署が違うから同じ社にいても会わないのに、海外に行くことが多い彼とは時間が合わない。

それが寂しいと思わないのは、彼が有名人だからなのかもしれない。

「結婚話し出ないの?」

「えぇ!?出ないよ。『家庭』って言葉と縁がなさそう」

「そうなの?」

「うん」

は結婚願望強いじゃん!良いの!?」

「良いと思うよ。大輝と結婚しないだろうし」

「え?そっち!?」

「まあ、いいじゃん。それよりは?」

と話題転換をする。

大輝との付き合いは、今までの彼氏とは色んな意味で違う。

土日に試合がある彼とデートらしいデートはしない。

もちろんオフと言うのは存在するが平日が多かったりするので、普通の会社員である自分と休みが重ならない。

だから専ら私の部屋で会う事が多い、と言うか帰ったら部屋に大輝がいる。

ついでに家で食事をしたがるから、自炊が増えた。

レパートリーなんてカレーとハンバーグくらいしか無いのにだ。

おかげで今じゃ冷蔵庫の中に食材が鎮座している事が増えた。

もう1つは、夜の営み。

なんというか・・・・・・半端じゃない!

1回が長いし、2度3度求められるしで疲れが凄い。

でも大輝のおかげなのかブラのカップは2つ上がった。

彼の周りの女性は胸が大きい人が多いのは大輝の元カノだからか?ってくらい多い。

幼馴染のさつきちゃんなんて、胸だけじゃなくて美人さんだし。

大輝の事を考え始めると思考が暗くなる。

それを打ち消すように、ハイボールを飲みまくった。


家に帰ったのは覚えてる。

けれどその後の記憶が曖昧だ。

意識が浮上してきて視界に入って来たのは昨日(さっき)まで来ていた自分のジャケットだった。

「あれ?」

「・・・・・・目覚めたのか酔っ払い」

後ろで聞こえるトーンの低い声。

「え?大輝?」

「他に男を連れ込んでなきゃな」

「あー・・・うん」

「なんだそれ」

「トイレ」

ベッドから抜け出してトイレに向かう。

トイレから出ると視界がクリアになっていた。

「あれ?」

玄関のヒールは揃えられているし、カバンもいつもの所にある。

脱いだスカートは綺麗に畳まれていて、上にストッキングが乗っていた。

しかも大輝の大きなバックの上に。

多分彼がやってくれたんだろう。

チェストに行って寝巻代わりのTシャツに着替えてベッドに戻ると大輝が掛け布団を持ち上げてくれる。

「さむっ」

滑り込んだ私の腰を抱き寄せ、彼の体が密着する。

大輝と付き合って買い替えたセミダブルのベッドも、彼がいると狭くなる。

けれど彼の大きな体にすっぽり包まれて眠るのが、結構好きなんだ。

彼の自分より高い体温に包まれ、再び眠りに落ちた。


「味噌汁作って」

朝起きて一番に言われたのがこれだった。

海外生活が長いからか、彼は和食を好んだ。

朝からあれこれ作る気にはなれず、冷凍しておいた料理を解凍していく。

切れている揚げと冷凍していたほうれん草で味噌汁を作り、なす味噌を解凍。

焼さばは回答の後に手を加えて照り焼きに。

買っておいた卵豆腐でお終い。

「美味そうじゃん」

「手抜きだけどね」

「・・・・・・」

「なに?」

「カレーやハンバーグより成長してんじゃん」

「大輝は外食嫌いじゃん」
「嫌いじゃねえよ」


「え?」

「やっぱ惚れた女が作る飯が一番美味いんだよ。いただきまーす」

「・・・・・・え?」

「呆けてるとの分も食っちまうぞ」

「え?やだ!」

と私も「いただきます」と言って料理に手を付けた。

「俺の胃袋はがガッチリ掴んだな。これで他の女の所に婿に行けなくなったぜ」

「ぶっ・・・!!!」

口に入れたご飯吹きだしそうになった。

すると大輝の手が伸びてきて唇の端に付いたご飯粒を取ってくれて、その粒を自分の口に入れてニヤリと笑った。

「・・・・・・っ!!?」

この余裕がなんかムカつく。

いつかとびっきり美味しい料理を作ってギャフンと言わせてやる!

心に決めて、今日も大輝に包まれて眠りについた。


2018/05/10