黒子のバスケ

氷室辰也

Night to feel loneliness

「ただいま~」


誰もいない部屋に、自分の声が虚しく響く。

靴を脱いでリビングへ行き、電気を点けてドラムバッグを下ろす。

部屋が冷めきっていないのは、彼女が出かけて間もないからだろう。

「間に合わなかったか」

オレの呟きは、彼女の温もりが残る空気へ溶けてゆく。

彼女と1週間、顔を合わせていない。

寝室のドアを開けると、ベッドの上に着替えが乗っていた。

それに着替え、体を横たえる。




彼女、とは3年の付き合いだ。

オレの所属するバスケチームが祭りに参加。

そこに彼女の務める老人ホームの面々が来たのが出会い。

この春に同棲を持ち掛けた。

最初に彼女が不規則な仕事だからと断ったが、強引に推し進めた。

妥協案としてダブルベッドじゃなく、シングルを2つ並べている。

抱きしめて寝ているから、これはあまり意味が無かったけど。

同棲を初めてから半年、初めて1週間顔を合わせていなかった。

まあ、自分が合宿でいなかったのもあるのだが。

そんな事を考えていたら、いつの間にか眠りについていた。



ふと目が覚めると、リビングで音がする。

大きい音では無いが、彼女が帰ったのが分かる。

パチンと電気を消す音がして、オレは目を閉じた。

寝室のドアが開き、彼女の気配が。

ベッドまでくると、オレが布団を掛けていないからか、

一生懸命布団を引き抜こうとしている。

その姿が可愛くて、彼女の腕を引いた。

「うわっ・・・・・・起こしちゃった?」

「いや、なんとなく目が覚めたんだ」

「そっか。お帰り。お疲れさま」

もお疲れさま」

抱きしめる腕に力を入れると、彼女も抱きしめ返してくれる。

些細な事に幸せを感じる。

「合宿で家に帰りたいと思ったのは初めてだったよ」

「そんなに家が恋しくなっちゃったの?」

「と言うより『が』かな?」

「辰也・・・」

「今日は休みだよね?愛を確かめ合いたいんだけど、良いかな?」

「ちゃんとその後に寝かせてくれるなら」

彼女の腕がオレの首に回される。

「善処するよ」

お返しに彼女をベッドへ押さえつけた。



2015/10/9