黒子のバスケ
スタート
青峰っちとの試合の後、オレはまっすぐ家に帰る事が出来なかった。
駅でボーっと道行く人を眺めていると、名前を呼ばれた。
「黄瀬?何してんの?」
声を掛けて来たのは同級生の。
気さくでオレを普通の同級生として扱う人だ。
試合に負けた事、漠然と思ってる事を口にする。
「なるほど」
「慰めてくださいよ~」
「はぁ?そういうのは彼女に頼みなさい」
「いないの知ってるじゃないッスか~!」
「だったらその辺の・・・」
「っちがいいッス」
ふわっと彼女を抱きしめると、っちが暴れる。
だからギュっと抱きしめた。
なんとなく人肌が恋しかった。
一人でいたくなかった。
笑顔でいたくなかった。
彼女の腕を取り、近くのラブホへと入る。
彼女が文句を言っていたのは聞こえたけど、本当に慰めて欲しかった。
それは体を重ねる意味合いを含んではいなかった。
彼女を抱きしめて、ベッドへ倒れこむ。
腰をぎゅっと抱きしめてたら頭を撫でられた。
子供をあやすみたいに撫でられた事に異論はあったけど、
気持ちよくて、心が穏やかになって行くカンジがして口には出さなかった。
しばらく抱き合っていたけど、彼女がどんな顔をしてるのか知りたくなり顔を上げる。
普段とは違う眼差しに引き寄せられた。
何となく唇を寄せ重ね合う。
温かくて気持ちよくて止まらなくなった。
キスを深くして、体も重ね合った。
あれから一週間が経った。
何か変わったのかと聞かれれば、何も変わらない。
相変わらずっちはクラスメイトで、それ以上でも以下でも無い。
自分にはバスケがあるし、恋人を作る気は無い。
今日の体育はバレーボールでボーっとしながら隣の女子コートを見ていた。
丁度っちがサーブを打つところだった。
「見えた!」「腹チラ!」
そんな男子の言葉に「オレは全部見た!」って言いそうになる。
「!!!!!」
視線を動かすと、コートにしゃがみこむっち。
隣の女子が必死にゴメンと謝っている。
すると一人の男子が立ち上がり先生と話をした後、っちを支える様にして体育館を後にする。
「斎藤のヤツ、の事好きだしな」
「見え見えだ」
なんだかモヤモヤする。
授業が終わって超ダッシュして保健室に向かう。
「しつれーします」
ドアを開けるとっちが座って先生が包帯を巻いていた。
「具合悪いの?」
「いえ、さん大丈夫かなって」
「ただの捻挫よ。それじゃあ、教室戻りなさいね」
先生は保健室を出て行く。
オレはそれを見送って彼女の方へ。
「黄瀬?なんか顔色悪いよ?」
「・・・・・・」
「具合悪いなら先生よびもど」
「何で何も言わないんスか?」
「は?」
「あの日の事」
「ああ・・・」
「オレは毎日毎日考えてたッス」
「毎日?」
「何で拒否しなかったのかとか、何考えてんだろうって。
色々考えてグチャグチャで、今も何を言えば良いのか分からない」
「忘れちゃえばいいんじゃない?無かった事にするとか」
「無理ッス!」
そして座ってっちを抱きしめた。
その瞬間に分かった。
「好きだ・・・・・・好きなんだ」
「黄瀬?」
「好き好き好き!オレと付き合って」
「流されてるだけじゃない?」
「違う。抱きしめて分かった。本当に好き。誰にも取られたくないほど好きだ」
そしてふわっと抱きしめ返される。
オレは膝をついて彼女の前に座る。
ちょっと上に上がる目線がなんか新鮮。
なんて思ったけど顔を赤くしてる彼女が可愛くて仕方がない。
「かわい~・・・大好き」
と唇を寄せると重なり合う。
前みたいに逃げられるんじゃなく、唇から幸せが伝わってくるカンジ。
ひとしきり彼女を堪能し、チャイムが鳴る。
「んじゃ、教室もどろっか」
「ああ、うん」
立ち上がる彼女の背と膝裏に手を回し、お姫様抱っこをする。
「ちょっ!黄瀬!?」
「オレの彼女だって見せつけないと」
「いや、無理!」
「ぜ~~~ったい落とさないから大丈夫。ちゃんと捕まってて」
「いや、恥ずかしい」
「それに、名前で呼んで欲しいッス」
チュッと彼女にキスをして、廊下を歩いた。
きっちり斎藤クンに見せつけないとね!
2016/03/23