黒子のバスケ
こっちを見ていて。
冬の終わり。
寒さがまだ厳しい東京の彼女の部屋で、
久しぶりの日曜日のオフを満喫していた。
「ねえ、っち。もうすぐマンション更新ッスよね?一緒に住まないッスか?」
「……え?」
「え?」
彼女の答えは予想に反したものだった。
てっきりオレは満面の笑みで「嬉しい!」ってなると思ってた。
けれど実際は驚いた後に困った顔をされた。
っちとは高校からの付き合いで、互いに東京の大学へ進学。
互いの両親に交際の報告はしてあるけど、同棲は却下された。
彼女が帰省する時に迎えに行くから、何度も両親には会っている。
ついでに俺の両親や姉貴達も会ってる。
姉貴達とは俺がいない時に飯食ったりもしてる。
モデルの仕事は相変わらずしてるし、貯えもある。
だからこの提案をしたんだけど……彼女は「うん」と言ってくれない。
しかも即答で「無理」と言われたのを説得して「時間を頂戴」にまでもっていった。
「なんでOKしてくれないんスかね……」
「イヤなんだろ」
「嫌なんでしょうね」
「だから何でなのかなって!」
俺の前に座る黒子っちと青峰っちがズズズッと音をたてストローを吸っている。
「彼女の嫌がる何かをしたんですか?」
「……ない、はず!」
「新しいオトコが出来たとか?」
「青峰っち……洒落になんないッス。事実だったら立ち直れないッスよ・・・」
「黄瀬くんに心当たりがないのなら、本人に聞くしかないと思いますが」
「だな。思いっきりフラれてこい!」
「何でフラれるの前提!?」
お茶だけ飲んで解散となった。
あれ以上オレの傷を広げられたら・・・
同棲の話をしてから一週間。
っちから週末家に来て欲しいと言われたので向かった。
「おじゃましまーっす」
そしてテーブルを挟んで向き合って10分が経った。
っちは口を開こうとしては手を当てて考えてたり、
どうやって切り出そうか迷っている様だった。
「ねえ、っち・・・これだけ聞かせて欲しいッス」
「な、なに?」
「オレの事、嫌いになったッスか?」
「ち、ちがっ!」
「たとえ一緒に住めなくても、別れたがっても、離れないッス」
テーブルを回りこみ、彼女の背後からぎゅ~~~っと抱きしめる。
「涼太・・・」
腕の中の彼女が本当に好きだ。
今までにも彼女はいたけど、っちみたいには好きじゃなかった。
っちとは1分1秒でも離れてたくない。
常に向き合って、見つめ合っていたい。
抱きしめ合って、隙間さえ開けたくない程交わりたい。
彼女の一番近くで、彼女の全てを独占し、独占されたい。
彼女のお腹の前で重ねた手に、っちの手が重なった。
そして優しい声で「聞いて?」と言った。
私も本当に涼太が好きなの。
ふと空いた時間に「涼太なにしてるのかなー」って。
今頃女の子に囲まれてるのかな?
私じゃない誰かが隣にいるのかな?
そんなのイヤだなって。
何で同じ大学にしなかったんだろうって思ったりもした。
でも涼太といたいからって理由で進路を決めたくなかった。
それで決めてたら涼太は私を好きになってくれないんじゃないかなって。
正直、大学の勉強は大変。
だから辛い時もあるし、泣きたい時もある。
だけど涼太に会うと元気になれるんだよ?
それくらい涼太の存在は私の中で大きいの。
でもね?多分一緒にいたら、ダメになっちゃうと思う。
自分の嫌な所を見せたくなくて無理して・・・って。
だから、ゆっくり進んでいきたい。
これからそういう自分の嫌な所も見せて行くようにするから。
だから・・・卒業までは待って。
涼太と少しでもたくさん笑って過ごせる様に。
「あーーーもう!」
彼女の体を反転させ、真正面から抱きしめる。
本当にこの子は・・・・・・
「好き、ちょーーー好き」
「涼太・・・」
「他の子なんか眼中にないくらい大好き」
「私も大好き」
体を離してっちの右手を取る。
ポケットから取り出した指輪を薬指に嵌める。
「左手はまだしない。それは未来のオレの役目だから」
「涼太・・・」
「一緒にいられない時は、それを見てオレを思い出して。
離れてる間もオレの事を思ってて欲しい。
っちの未来も、オレのものだから」
「・・・・・・うん」
泣き笑いのまま、っちが勢いつけて抱き着いてきた。
オレはそれを笑顔で抱き留め、二人でしばらく抱き合っていた。
2016/08/01