黒子のバスケ
KEY
引っ越し業者のトラックを見送り、空っぽになった部屋へ戻る。
この部屋の住人である涼太は部屋の中を最後の確認をしつつ何を想っているのだろうか。
この部屋は高校を卒業を同時に涼太が借りていた部屋らしく、私は彼と知り合ってから3年間通った部屋だ。
涼太と知り合って初めて訪れた彼氏の部屋
涼太と始めてキスをした部屋
涼太と初めて体を重ねた部屋
一緒に料理をしたり、映画を観たり、喧嘩もしたり……思い出のいっぱい詰まった部屋だった。
「っち、鍵、返して欲しいっす」
部屋の確認を終えた涼太が玄関まで戻ってきて私に向かって手を差し出した。
私はバックの中からキーケースを取り出して、この部屋の鍵を手にする。
【初めての合鍵】を貰った時は嬉しくて鍵を抱きしめて寝たほどだ。
この鍵を返したら全てが終わってしまうような悲しい気持ちが沸き上がってくる。
「ほーら」
涼太も私の気持ちがわかるのか、苦笑いで催促してくる。
渋々鍵を取り外して一度握りしめる。
きっと次にこの部屋に住む人はこの鍵を取り換えられてしまうだろうから最後のお別れをする。
ありがとう
精一杯の感謝の気持ちをこめて鍵を返すと、涼太がドアに手を掛けた。
「……色々あったっすね」
「……そうだね」
「ありがとうございました!!」
涼太は深々と頭を下げて、ドアを閉める。
鍵穴にそれを差し込み、戸締りをする。
そんな涼太の手を掴むと、ぎゅっと握り返してくれる。
「さ~て、新居に行きますか!」
「うん!」
部屋を後にして歩き出す。
暗い顔はもうおしまい。
これから向かうのは新婚生活を始める新居だから。
今度はその部屋で、2人の物語が綴られていく。