黒子のバスケ

黄瀬涼太

重なる時(とき)

仕事帰り、何気なく歩いていた街。

まだ15時と言う時間のせいか、太陽の日差しが元気いっぱいだ。

目深に被ったキャップのつばを上げ、空を見上げる。

「空が高くて真っ青ッスね~」

ぼんやり呟いた言葉は、周りの空気に溶け込んで行った。

ふと移した視線の先に、見知った人を捉えた。

っち?」

呼ばれた女性が俺を見て目を見開いた。

「・・・・・・黄瀬くん?」

「そうッスよ」

そう告げると彼女は懐かしい微笑みいっぱいの顔になった。



俺とっちは混雑するコーヒースタンドへと入る。

店内は所狭しとサラリーマンでごった返しだった。

その喧騒が俺を隠してくれる。

「久しぶりだね・・・・・・何年振りだろ?」

っちが中学卒業してからだから・・・・・・十年振りくらい?」

「リアルに年数思い出さなくていいし」

「いやいや、そこは大事ッスよ。っちは今何してるんスか?」

「幼稚園の先生だよ。今日は久しぶりに有給取ったんだけどね」

「へぇ・・・・・・夢、叶えたんスね」

「・・・・・・うん」

「というか、また苗字呼びッスか?」

「人気モデルを名前呼びしたらファンに殺されるよ」

なんて苦笑いしてた。

その後も互いの近況を話したり。


っちは所謂最初の彼女ってヤツで。

中学の時に付き合っていた。

お互い色々な「ハジメテ」の人。

正直、俺の初恋ッス。

別れる切欠になったのはっちの卒業だった。

っちは幼稚園の先生になりたくて、その付属高校への進学を決めた。

でもその高校は地方の為、会う時間も無くなるからという理由だった。

俺はバスケが面白くなって来たし、モデルもしてたから受け入れた。

別段彼女を思ってる理由もなく、女の子と付き合ったりもした。

でも、その時に思い出すのはっちだった。



グラスも空になり、俺たちは店を出た。

「声かけてくれて、ありがとう。久しぶりに話せて良かったよ」

「俺も楽しかったッス」

「それじゃあ、元気でね」

手を上げて立ち去ろうとする彼女の腕を自然と掴んでいた。

「黄瀬くん?」

「もう一度・・・・・・・やり直さないッスか?」

「え?」

「俺、やっぱりまだっちの事好きッス。あの時に手を離した事を後悔もした。

多分今、ここで手を離したらまた後悔すると思う」

「涼太くん・・・・・・・」

「もう子供じゃない。だから離れたく無いんだ」

そして俺は彼女を抱きしめた。

俺の背に彼女の腕がまわり気持ちが試合の時の様に昂る。

少し抱きしめる腕を緩め、彼女の唇に自分のそれを重ね合わせた。


2015/01/26