黒尾編 前編
高校三年の冬は、人生で一番忙しかったと思う。
春高バレーへの練習、受験勉強・・・そして彼女と出会った。
彼女、は同じ東京代表の青道高校で、チームメイトの中で度々上がった名前。
多分女子もだろうけど、どのチームのあの子が可愛い的な?
物色と言えば聞こえは悪いけど、それはまあ、誰でもやる事で。
そして試合の順番の加減で彼女の試合を観た。
チームの中で一人だけカラーの違うユニフォーム姿からポジションがリベロと分かる。
相手のスパイカーのコースに入り、強打をフワリと高く上げるレシーブに鳥肌が立った。
「あの子、凄いな……。ああやって高く上がれば次に繋げやすいのは分かるけど」
隣で観ていた夜っ久んが呟くほどだから、凄いんだと分かる。
お互いに試合に集中してるし、話す機会は一度も無かった。
彼女と話す機会が出来たのは社会人になってから。
同じ会社の同期として再会した。
飲みに行っても何をしてもバレーボールの話しばかりな。
色恋に縁が無いのかと思えば他人の恋愛には良く気が付く。
「彼氏作らないのか~?」とからかえば「そんな暇は無い」と返ってくる。
ある時からの様子が変わった。
落ち込んでる様な感じがするけど、話しをすればいつもので。
放っておけない気がした。
その時、彼女に惚れてるんだと分かる。
丁度その頃、大学で出来た彼女から結婚の話を匂わされて別れを決める。
所属チームの事、全日本メンバーに選ばれてそんな気になれないから。
一番はだった。
「彼氏欲しい」とさえ言わない程、男っ気の無い彼女。
その時が来たら真っ先に立候補してやろうと思っていた。
けれどそれが間違いだったと気付かされる。
CMの話しが俺とに上がった。
と言っても二人だけじゃなくて他のチームに所属する木兎とかも一緒だけど。
それでスタジオに行くことになる。
俺達の前に別の球種が撮影をしていて、はそれを見て固まった。
彼女の視線の先にいたのはプロ野球選手である御幸一也。
そして撮影が終わって彼らが撮影のセットから出てきて近付いてくる。
「・・・・・・久しぶり」
その瞬間、理解した。
彼はと色々あったんだって。
「、知り合い?」
隣に立っていた今日子さんが不思議そうに聞いて来た。
けれど驚きでいっぱいの自分は答えられないでいると、代わりに御幸君が口を開いた。
「―――高校の同級生っす」
そう彼は答えたけど間があったから絶対に違う。
これがの中に居座っている男なんだと直感した。
こういう時の勘ってのは嫌でも当たる。
それからというもの、彼を見かける機会が増えたから。
自分の中で警鐘が鳴り続けている。
2018/10/29
アトガキ
本編の穴埋めをする為の黒尾視点です。