第五話
朝起きると一也からメッセージが届いていて【また飯でも行こう】とあった。
正直言って、戸惑ってる。
嫌いで別れた人じゃないし、そもそも別れ話すらしてなかったし。
今でも好きなのかと聞かれても分からない。
あの頃は車なんて持ってなかったし、身に着けている物も、雰囲気も変わった。
時間を割いて会っていた彼はいない。
だから気持ちが追い付かない。
そんな事を一日中考えて練習に行こうと廊下を歩いていたら、後ろから足音が近付いて来た。
「よう・・・」
「ああ、鉄朗か。そっちも終わり?」
「まぁな。なあ、飯でも食いに行かねえ?」
「良いけど・・・お酒はパスしたい」
「んじゃ、いつもの飲茶でも行くか」
「おっけー。着替えていつものトコで」
「ああ」
彼に背中を向けて更衣室へ向かう。
鉄朗はチームに入る前から知っていた。
最後の春高バレーでイケメンが沢山いると女子の間で話題に事欠かなかったうちの一人だったから。
そして同じチームに所属して分かったのは面倒見が良くて知り合いも多く話も上手。
彼との身長差もあり、すぐに子ども扱いされてしまうけれど。
全日本でも一緒だったり、仲が良くなるのに時間はかからなかった。
練習の帰りに二人で食事とかも、割とある方かもしれない。
待ち合わせの玄関に行けば既に鉄朗がいて、スマホをいじっている。
「お待たせ」
「店に連絡したけど空いてるってさ」
「やった!色々食べたい」
彼と並んで店に向かう。
他の店に比べて一皿の量が少ないこの店は、あれこれ食べるのにちょうどいい。
鉄朗と二人で食べたいものをピックアップして、テーブルが料理で埋まった。
主にバレーボールの話題で話していて、ふと思いついた事を口にする。
「そういえば鉄朗、今彼女いないの?」
「あれあれ~?そんなにボクの事が気になります~?」
「知り合った頃はいたじゃない?あの頃も彼女の話ってしてなかったけどさ」
「・・・・・・まあ、今はチーム2つに所属してて海外行くのも多いしな」
「え?あの子と別れたの?」
「結構前にな。こそ御幸選手とどうなのよ」
「どうって・・・。またその話題?」
「ただの同級生って感じじゃないしな」
「・・・・・・まあ」
「元カレ?」
「んー・・・なんだろう。微妙な関係」
「ふーん・・・」
鉄朗がじっとこっちを見てくる。
真剣な眼差しが居心地を悪くする。
「な、なに?」
「煮え切らないなと思って」
「良いじゃん、私の話はさ」
「あんま良さそうには見えねえけど」
「実際そんな感じだから仕方ない」
「まあ、何かあれば言えよ?」
そう言って鉄朗はグラスを煽り、後ろを向いて次の飲み物をオーダー。
そんな彼を見て、兄がいたら・・・なんて事を思っていた。
2018/02/28