第一話

どのくらい見ていたか分からないけど。

?」と名前を呼ばれて現実に引き戻された。

後ろを見ると一也が立っていた。

「―――御幸君」

「練習終わった?迎えに来たんだけど」

「え?ああ、うん・・・」

捕まれていた腕の拘束が無くなり鉄朗を見ると、普段と変わらない顔をしていた。

「気を付けて帰れよ」

「ああ、うん。お疲れ」

一也に対して一礼をして、背を向けて手をヒラヒラさせた。

そんな彼の背中が建物に入るのを見て、一也を見る。

「行ける?」

「うん」

「んじゃ、行こうぜ」

彼の後に続いて歩くと駐車場に着いた。

車を停める所を探していたら、野球好きの警備員に停めて良いと言われたらしい。

彼にエスコートされながら車に乗り込むと静かに走り出す。

「免許、とったんだね」

「地方だと車のが便利なんだよな。は?とった?」

「結局取ってないんだよね」

「まあ、誰か持ってればいいしな。夕飯食いたいのある?」

「何でも大丈夫だけど」

「やっぱり?んじゃ、店予約しといたからそこ行こう」

お店は案外近い場所で、駐車場に車を停めて店内へ。

案内されたのは個室。

「とりあえず食べよう。練習したし腹減ったろ?」

「あ、うん」

メニューを見ると創作懐石で。

何が美味しいか分からないからお任せコースをお願いした。

どれもこれも美味しくて、今日の目的も忘れてしまうくらい。

話す内容も当たり障りの無い物で、食事自体を楽しめた。

テーブルの上が一度綺麗に片付けられ、デザートとコーヒーが運ばれてくる。

「懐石なのにコーヒーなんだね」

「ああ・・・うん」

デザートに手を付けている私とは正反対に、一也の手が止まった。

表情も先ほどと違い、笑みが消える。



「・・・・・・何?」

「あの時は本当にごめん」

テーブルに額が付きそうな程頭を下げる一也。

そして顔をあげて私を見た。

「ちょっと言い訳させて貰うと、あの頃ちょっと色々あってさ。も忙しかったし簡単に会える距離じゃなかったし、誰でも良いから傍にいてほしかった」

「・・・・・・」 

「でもあんな形でも会えたじゃん?早く連絡しておけばって後悔したよ。から連絡来たら話すつもりだったし。でも来なかった」

「・・・・・・」

「だからさ。もう後悔しない様に連絡したんだよ。からしたら急な話だろうけどさ」

「?」

「もう一度ちゃんと付き合いたい」

「―――え?」

「別れたつもりも無いから変な話だけどさ。考えといて」

それから一也はデザートに手を付け、話題を変えて喋り出した。

続けられてもすぐに返事は出来ないから有難いけど、すんなり喜べることでも無く複雑な心境だった。


2018/02/23

アトガキ

次は俺のターン!
とか言えそうな御幸の出番です。
動き出しました~。