第二話
「、知り合い?」
隣に立っていたさんが不思議そうに聞いて来た。
けれど驚きでいっぱいの自分は答えられないでいると、代わりに御幸君が口を開いた。
「―――高校の同級生っす」
「そうなんだ!」
「あ、後で打ち上げの時にサイン貰っても良いっすか?」
「良いよ。それじゃあ、お先に。、また後で」
そして御幸君は私の肩をポンと叩いてスタジオを出て行った。
「・・・・・・」「・・・・・・」
「それじゃバレーボールの皆さん、こちらへ」
気持ちの整理がつかないままスタッフの誘導でスポットライトの下に案内される。
また後で?
この後に打ち上げが用意されているのは知っている。
そこで何か話すの?何を?あの時の良い訳?
今更何を話そうと言うの?
次々浮かんでくる疑問を打ち消し、なんとか頭を切り替えて言われた通りに動く。
そして写真撮影の時、鉄朗が背後から「もしかして元カレだったりする?」と耳元で囁いた。
「・・・・・・・同級生だよ」
そう答えるのが精一杯だった。
バレーボールも勉強も頑張って、憧れの青道高校に入学。
全寮制で勉強もスポーツもハイレベルで、ついて行くのも大変だった。
練習が終わってからも先輩は自主練してるし、スタミナの違いを見せつけられた。
だから練習が終わって自主練をしようとしたけど体育館はレギュラー等の練習で使われていて出来ない。
だから近くに土手に行ってランニングをしようとすると、色んな運動部が活動をしていた。
その中に御幸一也がいた。
最初は先輩かと思ったらどうやら同級生で。
彼は一年でレギュラー入りをし、雑誌などに取り上げられる程注目されている人だった。
天才と呼ばれていても物凄い努力家で、休み時間はスコアブックを見ているほど野球に対して真摯だ。
甲子園にも行って成果を残した彼を三年の夏まで見ていた。
未だに話した事が無いのは同じクラスになった事が無くて面識が無いからだ。
引退した彼等は野球部の寮から一般に移り、会う機会が激減。
会話らしい会話をした事も無い彼に恋してると気付いたのはこの時だった。
だからと言って告白出来るはずもない。
バレーは3年生で新年を迎えても大会があるから。
練習に明け暮れていると、彼がプロ野球に入る為のドラフト会議が行われた。
学校は大騒ぎだったけれど練習で忙しい自分は後でニュースで見ただけ。
そして彼の名前を引いたチームが九州で、そこに決まれば会う事も無くなる。
だから自分も大会が終わったバレンタインにチョコを渡そうと心に決めたのだ。
ベタな話だけど。
バレンタインの前日に、彼の机に手紙を入れた。
14日の放課後に会って欲しいと。
そして書いておいた時間と場所に、彼は現れた。
「来てくれてありがとう」
「いや」
「えっと、これ」
「サンキュー。これって義理?」
「えーと・・・本命、です」
「そっか。それじゃあ、これから彼女って事で良いのかな?」
「え?」
「でも俺、九州行っちゃうけど」
「あ・・・私は長野」
「はっはっは。いきなり遠距離かよ。おもしれぇ。んじゃ、これからヨロシク」
それから彼との時間が始まった。
と言っても彼は既に球団の合宿に参加したりしていて、暇な日の方が少なかったんだけど。
それでも一緒にいる時間を大事にしていた。
「」と初めて名前を呼ばれた時、手を繋いだ時、キスをした時......
三年の卒業間際が一番濃密な時間だったかもしれない。
そして卒業式を迎えると、彼は九州へと行ってしまった。
淋しいと思う暇も無く、自分も長野へと引越しを済ませる。
可能な限りテレビ電話をして、可能な限りメールのやり取りもした。
長期の休みに帰省とデートを重ねていく。
上手くいってると思ってた。
社会人になり、所属するチームが東京になった。
給料も貰えるしとサプライズで彼に会いに九州に行った。
この頃には一也も1軍でマスクを被っていて、1人暮らしをしていたからだ。
住所を辿り、彼のマンションに着いたけど彼はいなかった。
連絡してはサプライズにならないからと駅まで戻ってビジネスホテルにチェックインする。
荷物を置いて部屋を出て、スマホで検索した飲食店を探す。
電車に乗って繁華街まで行ったのは良いけど目的地が分からない。
慣れない街でキョロキョロと店を探していると、当初の目的の人物がいた。
「―――っ!!!?」
呼ぼうとした名前は口から発せられる事は無かった。
彼の腕に巻き付く細い腕。
見知らぬ女性の物。
そして彼が私に気付いた。
「 」
私の名前が発せられる前に視線をずらし、身体を翻す。
それから私から連絡する事も無ければ、一也からの連絡も来る事は無かった。
2018/02/15