第十話
軽やかに走り出した車は、静かに進んで大きな公園の脇で停まった。
彼女はギアをパーキングに入れ、静かに私を見た。
「単刀直入に聞きます。御幸さんの事、どうするおつもりですか?」
「え?」
「どういう関係ですか?とお聞きするべきでしょうか」
「……」
「最初に言われました。本気じゃないと。私も最初はそれで納得してたんですけど気が変わりました。彼との将来を考えています」
「……」
「昨日も一緒にベッドにいました。それなのに貴方からの電話を別室で受けていました。はっきり言って迷惑です」
ここまで言いたい放題されるとさすがに腹が立つ。
「私と一也との関係聞いてないんですか?まあ、それだけの関係みたいですしね。彼の性格からしたら聞いても答えないと思いますけど。でも私が教える義理も何も無いので彼に聞いてください。これ以上話をしても先に進まないようですし、失礼します」
私は車のドアを開けて外に出た。
中から彼女が何か言ってる気がしたけど無視して歩き出す。
なんなのよ!
私からすれば、あんたのが後から出張って来てるんだっつーの!
曲がり角を曲がり、足を止める。
もう、なんなのよ……
自分の気持ちを置き去りにして周りがどんどん動いて行く。
それが悔しくて、寂しくて、何だか涙が出て来た。
「?」
名前を呼ばれたので反射的に顔を上げる。
そこにはアイスを咥えている鉄朗がいた。
「なっ…どうした?」
すぐに顔を逸らしたとはいえ、泣き顔を見られてしまった。
どうしたって聞かれて答えられる訳が無い。
だから首を横に振ると、温かいものに包まれた。
鉄朗に抱きしめられたんだと、すぐに理解出来た。
「ん……」
「起きたか?」
「あれ?」
「疲れてたんだろ。あの後、気絶する様に寝てたし」
目をあければ鉄朗がいて、と言うか、鉄朗の腕の中っぽい。
だから吐息が触れる距離で喋ってる。
「……ここって」
「しっ……もう少し寝てろ」
どんどん小さくなる声の後に触れる唇。
角度を変えて重なる唇、ゆっくりと梳かれる髪。
そして鉄朗が覆いかぶさって来た時、私は静かに目を閉じた。
その目に鉄朗の大きくて温かな手の感触。
「何も考えるな」
首筋に触れる唇、肌を這う手と舌の感触に体が震え・・・私は目を閉じると同時に思考を止めた。
2018/05/25