御幸編 最終話
「彼女に会ってきました。もう寄りを戻す気も無いんだから私を見てください」
真っすぐに向けられる気持ちが、嬉しくもあり重たくもあった。
自分の気持ちはにしか向いていないから。
数々のルールを破った彼女へ対する苛立ちすらあって、自分もしっかり行動すべきだと思った。
先輩に借りてたマンションから自分で購入したマンションへ引っ越し。
いずれここは賃貸にして実家を建て直して親父と同居でも良いし、こっちに越してきて貰っても良いしと、ファミリータイプを購入した。
物に固執しない自分の少ない荷物のおかげで引っ越し作業は2日もあれば終わってしまう。
待てども連絡がこない事にしびれを切らして彼女へ会いに行った。
久しぶりに会ったを新居へ連れてくる。
その態度からして、黒尾鉄朗と何かあったのはすぐに分かった。
自分が彼女への想いに気付き迷ってる間の出来事とは言え、自分以外の男に惑わされているが憎らしかった。
アイツに好きって言われたのか?
アイツとキスしたのか?
アイツに抱かれたのか?
醜い嫉妬が心の中で黒く渦巻いている。
はこんな感情と何度向き合ったのか考えると、自分の情けさが明るみに出て泣きたくなる。
だからこそ、これから先のを幸せにして笑顔にさせたいと強く思った。
「それではさんに、惜しみない拍手を!」
Vリーグシーズン最終日、の引退試合となった。
残念ながら優勝で終わる事は出来なかったけど、本人は満足してるらしい。
俺にとっての存在自体が支えになってるけど、復縁してからは俺に支えられただろうか?
今まで泣かせた分も笑顔にしてやりたいと思ってるけど、実践出来てるだろうか?
疑問形でしか語れないのは自信がないからだと分かっているけど、野球同様結果が目に見えないんだから仕方ない。
体育館から控室へ続く廊下にも、花束を持った人だかりが。
「のヤツ、愛されてんじゃん」
独り言ちて少し離れた場所で腕組をして壁に寄りかかって別れの瞬間をみている。
の顔は笑顔だけど涙でぐちゃぐちゃだ。
そしてあの黒尾鉄朗がいて何か話したと思ったら俺を指さし、がこちらを見て走り出した。
「お疲れ」
走ってきた彼女を花束ごと抱きしめる。
「控室まで来るって聞いてなかったのに」
「やっぱサプライズは大事じゃん?」
「来てくれてありがとう」
「新たな旅立ちの日なんだから奥さん迎えに来て当然だし」
「じゃあ、着替えてくる!」と控室へと行ってしまった。
すると代わりに黒尾鉄朗がきた。
「お疲れさん。今日は送別会来るんデショ」
「まあね」
「そん時にサインしてくんない?10枚くらい」
「……いいけど。んじゃ、俺にもしてくんない?」
「……良いよ」
この後の飲み会で何だか意気投合して、それから悪友関係が続いた。
そしては笑顔の日が増え、その笑顔の数だけ俺の幸せが増えていった。
2018/10/29
アトガキ
時間が空いてしまいましたが、
御幸の最終話です。