御幸編 第一話



編 第四話まで




「一也さん?」

「・・・・・・え?ああ、呼び慣れてないから御幸のままで」

ラブホテルの一室のベッドの上。

いわゆる「イイ女」を押し倒して首筋にキスをする。

一応唇にもキスはするけど、必要以上にはしない。

ついでに名前で呼ばれるのもアウト。

それを最初に約束をしたのに、名前で呼びたがるのはどの女も同じだった。



今までに恋愛なんて腐るほどした。

特に片想いってヤツは。

野球を選んだ以上恋愛より優先してきたからだけど、彼女って彼女を作る暇が無かった。

高校一年の時素振りをするにも寮の近くは先輩が占領してて、一年は土手を上がって場所を探してた。

そんな中、夜に土手を走る女生徒がいた。

入学式で見かけたから同じ一年だ。

彼女がバレー部だと知ったのは後からで、あの身長でだと厳しいだろうと思ってた。

けれど彼女はバレーを続けていて、高3で春高バレーに出ていた。

自分は進路も決まってたし、学校全部で応援にも行った。

全国制覇には届かなかったけど、彼女の活躍は目に焼き付いた。

そんな彼女からバレンタインに告白され、付き合う事になった。

努力家な彼女だし、自分にも野球があるし。

お互いが時間のある時に会いに行く、そんな遠距離恋愛もしていた。

全日本にも選出され、彼女への感情は募るばかり。

順調な彼女とは裏腹に、自分はスランプに陥る。

それを話せば彼女は心配して頭を悩ませるだろう。

そんな姿は見たくない。

魔がさした。

先輩に連れられて行った飲み屋の女の子と関係を持った。

ただただ性欲に溺れるのが気持ちよかった。

それから別の女性と一緒にいる時、がいた。

なんでここに?

あの時はそれしか頭に無かった。

追いかける事も出来ず、自分から連絡をする事も出来ず、彼女からの連絡すら途絶えた。

それからの事はテレビで見るだけになった。




そんなある日、CMの撮影が行われた。

最初に話しを聞かされた時、きっと彼女がいると思った。

自分の分の撮影が終わり、入れ違いに彼女がスタジオに入ってくる。

あの頃よりも綺麗になったな。

両脇にいる男に嫉妬めいた感情が湧き上がる。

・・・・・・久しぶり」

俺がいるのを知らなかったんだな。

最後に見た彼女と同じ、驚いた顔。

打ち上げの時に話をしようとしたけど、結局それは叶わず。

とりあえず名刺を渡した。

まあ、連絡は来なかったけど。

けれどこんな事で諦められない。

だからメッセージアプリに表示されている名前にメッセージを送った。

そこまですれば連絡はくれるのか、返事が来た。

会う約束をして、日時を決める。

今はオフシーズンだし、俺が彼女を迎えに行く事になった。

いざ彼女の練習場である体育館を目指す。

警備員に話をすれば、彼は野球ファンらしくて話が早かった。

車を停めており、彼女を待つ。

建物からが出てくるのが見えたけど、また隣に男がいる。

?」

話し込んでる彼女の後ろまで行って声を掛ける。

彼女の柔らかい短い髪が揺れて振り返る。

「―――御幸君」

その瞬間、視界が真っ暗になった様だった。



2018/05/24

アトガキ

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