呪術廻戦
君と僕の秘密
「ねぇ、あれはどういう意味だったのかな~?」
いわゆる壁ドンしながらアイスブルーの瞳で私を見下ろすこの男を、五条悟という。
絵に描いた様な真っ青な雲一つない空の下、真っ黒なスーツに身を包んでいる自分は「何やってんだか」と自問自答したくなる。
それもこれも自分で選んだ道とは言え、自分の力でどうこう出来ない自然の力にうんざりしつつも任務をこなす自分を心の中で褒めまくる。
数分だけコンビニという天国に足を踏み入れたのは良いが、外に出てまた「あぁ……」と力ない声が出るのは自然の摂理じゃないだろうか?
なんて色々自問自答しながら真っ黒な高級車の所に戻れば、エアコンが聞いた社内のバックシートで腕を組んで眠る男が。
少々(多分)の殺気を押し殺しながらガラス窓を軽く2回ノックすると、中の男がパワーウインドウを下げて顔を出す。
「どうぞ」
空いた窓から少々結露が付いてしまったアイスが入った袋を差し出すと「サンキュー♪」と軽い返答にまた苛立ちを覚えるが私は背を向ける。
「あれ?は食べないの?」
「はい」
というか、補助監督とは言え私の方が年上なんですけど!
この男は何故か(いや、多分わざと)人をイラっとさせる事ばかり言うし、やる。
相手にするだけ無駄なのでそのまま車から距離を取り腕時計を確認すると、合同任務で必要な帳を下ろすまで10分を切っていた。
「ねぇ、は食べないのー?」
「食べません」
私は任務の内容が入ったスマホを画面で確認している。
といっても全て内容は頭に入っているのだが、この男の相手をしないで済むようにしてるだけで。
無視を決め込んで数分、背後で車のドアの開閉音が聞こえて「」と名前を呼ばれたので振り向くと口に冷たい物が押し当てられて中に押し込まれる。
冷たい感触に続いて甘いチョコとバニラが口の中に広がった。
「♥のピノを頑張ってるにあげるよ」
「………どうも」
「どういたしまして。で、食べたよね?」
「はあ……」
口に直接入れておいて何を言ってんだか。
結局この後特級案件が重なり、彼と話す事はなかった。
今日の任務はイレギュラーが重なり、後片付けも大変な物になった。
現場の後片付けを終えて高専に戻ると、関わった呪術師達から報告書を受け取って自分の報告書を作成。
それが終わったのは次の日の朝日が昇る直前だった。
補助監督のリーダーである伊地知さんに報告書を渡して「お疲れ様でした」と言葉を交わして部屋を出る。
家に帰ったらお風呂に入ってベッドにダイブしたいけど朝ごはんも食べたいし、でも冷蔵庫に何もないから……などと考えながら歩いていたら注意力も無くなっていて廊下に立ってる人物に気が付かなかった。
「おはよう。それよりお疲れさんかな?」
ぶつかる寸前で声を掛けてくれたおかげで衝突は回避出来た、が、目の前に立ちはだかる壁を見上げると五条悟が立っていた。
こんな薄暗い中でもサングラスをしてるのは、能力のせいだとか。
いや、そんな事はどうでも良くて。
「お、お疲れ様です。早いですね?」
「どうだろう?そう思うならそうなんじゃない?」
「(また意味不明な)……それじゃあ、失礼します」
「はい、ストップ」
声と同時にバンと言う音がして、彼の両手が私の顔の横の壁……いわゆる壁ドン状態になった。
そして「ねぇ、あれはどういう意味だったのかな~?」と顔が近づいてきて言われた。
後10センチの所からの問いに私の心臓はバックバクで。
「あれとは?」
「またまた~とぼけちゃって」
「いえ、何の事か「2年前」」
「え?」
思い返そうとした矢先、彼は更に近づいて耳元で囁いた。
「寝てる僕にキス、したよね?」
「え!?」
その瞬間、彼の体が私に密着して「したよね?」と続けた。
「な、なんで……」
「はさ~僕が寝こけてると思ったんだろうけど。ほら、僕って最強じゃん?一定の距離に気配を感じると目が覚めちゃうんだよね。だけどの気配だから寝たふりしてたんだけど。そうしたらってば積極的にキスするんだもん」
僕驚いちゃったなんてハートマークがつきそうな喋り方をされたけど、脳内では「なんで」しか出てこなかった。
「いや、あれは……」
「あれは?」
「なんと言うか……」
「先輩から可愛い後輩イジメ?」
「ちがっ!」
あれは2年前の年末で、私が見回り当番だった。
薄暗い廊下で生徒も誰もいないはずなのに、なんとなく誰かの気配を感じて教室を覗くと窓際の席で五条悟が居眠りをしていた。
暖房も点いてないのに……風邪を引くよ?と注意しようと近づく。
なんとなく、本当になんとなくだけど泣いた後の様に見えた。
もしかすると夏油傑を手にかけた事を悔いてたのだろうか?
あのアイスブルーの瞳には涙が浮かんだのだろうか?
そんな事を考えていたら、無意識に綺麗に結ばれた唇にキスをしていた。
はっとなって急いで教室を後にしたのを思い出した所で唇に温もりが。
目の前には五条のグラサンがあって、その奥にある長いまつげがゆっくり持ち上がって綺麗であろう双眸が見えた。
「な、なんで……」
「ん~仕返し?違うな。いじわるかな」
「なんで」
「ほら、好きな子ほどいじめたくなるってヤツ?」
「は?」
「それにほら、僕の想いを受け取ったでしょ?」
「いつ?」
「昨日」
「はぁ!?」
「僕のハート、食べたじゃん?」
「あ、あれは五条が」
「まあまあ、どうせも僕が好きじゃん?」
両想いって事で、なんてまたキスをしてきた。
やられっぱなしでムカついたから、腕を回してぎゅ~と抱き着いてやった。
2023.09.29