呪術廻戦
女神
出逢いは高専に入学してすぐ。
某有名ホテルの庭園に咲く、桜の舞い散る月明りの下だった。
薄暗いはずなのに舞い散る花びらを見つめて見上げる横顔が月明りに照らされて綺麗だと思った。
「こんばんは」
一応の礼儀として声を掛けると、ゆっくり彼女が俺を不思議そうに見て、ふわりと微笑んだ。
「私を知ってるの?」
その言葉にガクリと肩が下がった。
「君の旦那です」
「まだ結婚してませんけど?」
「未来のってヤツかな」
「そうでしたか」と言ってまた彼女は桜を見上げる。
「一応コレ、お見合いなんだけど」
「もう見合いましたから」
って、そういう意味じゃないし!
「桜、好きなの?」
「いいえ」
会話終了。
この直後、両家の両親縁者が来て一般的なお見合いをした。
もう日付が変わろうとする夜更けに合鍵を使っての部屋に。
部屋の中は真っ暗だったけどリビングを抜けてベッドルームに向かう。
そこには大きめのベッドの隅にこんもりとした山があった。
僕は着ていた服を脱いで自分専用の引き出しから新しいシャツをだして着替える。
掛け布団を持ち上げて背後からを抱きしめた。
「………」
腕の中でが向きを変え、ゆっくりと開いた瞳が僕を見てすぐ閉じてしまう。
「お疲れ様でした」
小さい声だけど静まり返った部屋の、至近距離からははっきり聞こえる。
自分より小さな手が僕の背をゆっくりと上下して撫でてくれる。
彼女の温もりが押し殺していた感情をゆっくりと溶かしていくようで僕はの胸に顔を押し付け、声を殺して泣いた。
唯一友と呼べる存在を手に掛けた事は大きく僕の胸をえぐった。
一緒に学んで、一緒に任務をこなして、色々語って笑いあった日々がもう二度と戻ってこない。
僕が手を下した。
息の根を止めた。
は何も聞かないでいてくれるのがありがたかった。
言葉にしたら自分を支えてる最後の精神まで崩れてしまいそうだったから。
の優しさが、空いた穴を埋めていく様に感じた。
朝になり、明るい太陽がカーテンと通り越して部屋を明るくする。
は僕にコアラみたいにしがみついて眠っていた。
苦しさも己の罪も消えた訳じゃない。
だけどこの場所、の隣ならゆっくり眠れる気がしたからもう一度目を閉じた。
2022.06.01