ハイキュー!!
涙に濡れた木曜日
高3になってから時々トレーニングの一環でプールを使っている。
水の抵抗と言うのは体への負担が少なく、やりやすい。
水泳部部長に話をして一角を借りて練習するほどだ。
夏休みになってもそれは継続している。
今日も午前中に場所を借りていて、バレー部の練習に参加。
帰る間際になってゴーグルをプールに忘れて来たのに気付いてそこに向かう。
既に水泳部の練習は終わっていて、室内は電気が消えているけど夕日が差し込んで歩くのには困らない。
プールサイドに足を踏み入れた瞬間、誰もいないはずのプールで水音がした。
水の張られた場所に目を向ければ、誰かが仰向けで浮いている。
「誰だ?」
近付いていくと腕を上げて指先から滴る水を眺めているがいた。
彼女は揺蕩っているかと思えば体を捻って水の中へ入っていく。
「イルカみたいだな」
水の底でドルフィンキックをし、水中を移動している。
そして浮上してきた。
「一人で何やってんだ?」
「はじめくん……」
声を掛ければ驚いた顔をして俺を見る彼女。
その目が真っ赤なのはプールの水のせいじゃないだろう。
昨日はインターハイで負けたと連絡があったから。
「何でいるの?」
すいすいと泳いで近くまできたが疑問を口にする。
「忘れもの取りに来たんだよ」
「ドジだな~」
「うるせっ。もう遅い時間だし帰るぞ。着替えて来いよ」
「もうそんな時間なんだ?」
それから視線を移して時計を確認し、プールサイドから上がってきた。
部活時間じゃないからか、帽子もゴーグルもしていない。
塩素で色素の抜けた茶色い髪が水でベッタリと張り付いている。
結わいていたゴムを取って髪の間に指を入れると、長めの髪が鍛えられた肩を隠していく。
本人は気にしてるらしいが、女の体に違いは無い。
「校門で待ってるからな」
「ああ、うん」
タオルを拾って体に巻き付けて水分を吸収させていく。
それを体に巻き付け、女子更衣室へ消えていった。
俺は男子更衣室に入ってゴーグルを探す。
「あった・・・」
机の上に無造作に置かれたゴーグルを手にして鞄に入れる。
いつもなら隣から騒がしい声とか聞こえるのに、今は何の音もしない。
(もしかして・・・)
更衣室を後にして、隣の入り口に立つ。
「おーい、?」
呼んでも返事が無い。
ここから先に足を進めるには勇気と覚悟が必要だ。
「!聞いてんのか?」
いくら呼んでも返事が無い。
まさかとは思うが……。
と付き合い始めて半年経つ。
けれど今までキス以上の事をした事が無い。
そもそも付き合い始めの時に「インターハイ終わるまで待って」と言われたからだ。
彼女は初めてで(俺もだけど) 、体の変化が起きたら怖いという理由から。
最後の夏に掛ける意気込みは理解してるし、彼女の意思を尊重した。
「入るぞ?」
呼んでも返事が無いのだからと足を進める。
男子更衣室とは真逆の作りだ。
奥まで進んで行くと彼女はタオルを体に巻いて下を向いて立っていた。
「おまっ!」
水着姿を見慣れてても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
視線を逸らすけど彼女が反応した気配はない。
おずおずと彼女に視線を移すが、やはり動かない。
「?」
心配になって彼女の肩を掴んでこちらを見させる。
触れた方は冷たくて、目元には涙が。
「はじめくん…」
小さな声と共に細い腕が俺に抱き着いてきた。
TシャツとYシャツを着てても分かる彼女の柔らかい感触。
「ちょっ・・・なんか着ろって」
俺の肩口に額を当て、顔を横に数回振ったのが分かる。
彼女の腕に力が籠って体が更に密着した。
「あのさ、俺も一応男だし」
「今まで待たせてごめんね」
「ヤケになるなって」
「違う!今だから、好きなはじめ君だから」
涙ながらに見上げるとか、煽ってるとしか言えないだろ!
「くそっ…!後悔しても知らないからな」
彼女を抱きしめてキスをして、近くのベンチに彼女を押し倒した。
2018/08/16