ハイキュー!!

及川徹

太陽に恋して翼をもがれた

誰もいなくなった放課後の教室。

窓際の誰の席か忘れたが、そこに座り窓の外を見る。

大雨が降っていて、普段ならいる野球部かサッカー部はいないグランド。

そのグランドに川の様に流れる雨水を見ていた。

まるで彼の様ではないか。

周りの事などお構いなしに巻き込んでゆく。

「あれ??まだ残ってたんだ」

「うん」

声だけで分かる。

この声の主は今さっき考えていた人物、及川徹だ。

けれど私は窓から視線を動かさず、流れる水を見続ける。

彼は私の前まで来て、椅子に腰かける。

「こんな景色見て面白いの?」

「面白くないよ」

「なら何で俺を見ないの?」

「何で見なくちゃいけないの?」

「視線合わせるのも嫌になるくらい嫌われた?」

「さあ」

彼が動いたと思ったら私の隣に移動してきて、腕を掴みあげられた。

さすがにこれは条件反射で彼を見てしまう。

「やっと見た」

「・・・・・・」

「どうしたら俺を見てくれるようになる?」

「見てるよ」

「どうしたら俺を好きになってくれるの?また間違いそうになる!」

重ねられた唇が震えている。




高校1年の時、彼とは同じクラスだった。

及川徹と言う人物は人を魅了する何かがある。

良くも悪くもだ。

彼の周りには常に誰かがいる、自分とは真逆の人。

彼の容姿は女の子を特に惹きつける。

自分もその一人だ。

ろくに話もしていないのに、夏休み直前に彼からの告白。

私は彼の隣に立っていられないから断った。

でも納得がいかないのか、彼は時折告白めいた事を言ってくる。

2年になってクラスが離れた。

廊下ですれ違う時など小声で「好きだ」と言われる事があった。

あれは秋頃だろうか。

今日の様に教室でボーッとしていると及川が目の前にいた。

「一年経っても好きなんだけど」

「一年経っても答えは変わらないよ」

「もう、限界なんだ」

私の視界には顔を歪める及川徹がいた。

近付いたと思ったら近すぎて顔が見えなくなる。

重なる唇、熱い吐息、乱暴だけど優しい手が私を翻弄する。

耳元で、甘い声で「」と呼ばれ心が震える。




唇が離れて行く。

きっとこのままだと彼は前に進めない。

「私はイカロスだから」

「イカロス?」

「ギリシャ神話の登場人物。蝋で作った羽で太陽に近づいて溶けて墜落死する」

「もしかして太陽って俺?」

「そう」

すると前の様に顔を歪める。

「太陽なんて神聖化しすぎだよ。

俺の中はカオスなんだ。

七つの大罪でも良い。

清廉潔白でも無いただの『及川徹』でしかないんだ。

だから!俺を見て・・・」

抱きしめてきた腕は振り払えるものでは無いのに、力強さを感じなかった。

あの及川徹がこんなに脆い人だと思わなかった。

それならば隣に立つことが出来るのかもしれない。

「えっと・・・1年の頃から好きだったよ」

「えっ!?」

ガバって効果音が聞こえそうな程の勢いで離れて行く体。

切れ長の目がまん丸になっている。

「それホント!?」

「え?あ、うん・・・」

「行くよ!」
手を捉まれ恋人繋ぎをし、ズンズンと引っ張られる。

どこに行くのかと思えば体育館だった。

バンとドアを開け、みんながこちらを振り返る。

彼は私と手を繋いでいない手を腰に当て、胸を反らす。

「及川徹!ついにを彼女に出来ました」


2017/01/31