ハイキュー!!

及川徹

すれ違いの純情

別々の大学に行った岩ちゃんと「飲もう!」いう話になったのは昨日の事だった。

待ち合わせの駅に着いたのは約束の時間の30分も前。

けれど中途半端な30分をスマホで遊びながら待とうとしていた。

「あれ??」

何も考えなくても出て来た名前に自分でも驚いた。

振り向いた彼女は俺が知ってる時よりも遙かに大人びていたのだから。

それなのに当たっていた事に自分でも驚いた。

けれど俺以上に彼女の方が驚いているのかもしれない。

「・・・・・・徹くん?」

恐る恐る様子をうかがう様に俺の名前を呼んだ。

声はあの頃のままだ。

「そうだよ~。ひっさしぶりだね~」

「ああ、うん、久しぶり」

「東京 はどう?」

「人が多いよ」

「だよね~。と言うか、まだ時間平気?」

「・・・・・・なんで?」

「久しぶりに会ったんだし、もう少し話したいじゃん?」

「・・・・・・家に帰るだけだけど」

「それじゃあ決まり!」

彼女の腕を引いて、近くのコーヒーショップに入る。

オーダーをして、先に彼女を座らせた。

その間に岩ちゃんにメッセージを入れ、この店にいる事を伝える。

そして注文したものを受け取り、彼女の座る席へと移動した。

「お待たせ」

「ありがとう」

ラテを受け取りお礼を言う彼女。

彼女の前に座り、コーヒーに口を付ける。

「まだ休みじゃないよね?」

「ああ、うん 。明日には東京に戻る」

「東京に『戻る』んだ」

「今は東京が拠点だからね」

ちょっと嫌味を込めて言ったのに、彼女は笑って返す。

こういう所は昔から変わらない。

彼女は所謂幼馴染で、と言う。

同じ年齢なのにしっかりしているというか、大人びているというか。

中学の時は彼女の事が好きだった。

けれど想いを告げる事は無かった。

すると高校に入ってからしばらくして、彼女は岩ちゃんと付き合い始めた。

基本的にしっかりしている岩ちゃんと、お似合いだなーと思った。

二人はいつも穏やかで、お似合いの二人って感じだった。

けれど一年もしないで別れ、その矢先に彼女は東京行きを決めた。
何 で別れたのかを聞いた事が無かった。

何となく触れてはいけないと思えたのだ。

「もう宮城に戻って来ないの?」

「どうかなー。戻るとしても、すぐじゃないかな」

「何で?」

「私の事より徹は?大学は東北でしょ?」

「気になる?」

「私だけ言うのはフェアじゃないでしょ?」

「なるほど」

・・・・・・か」

「っ!!はじめくん?」

俺も気付かなかったけど、岩ちゃんも約束の時間より早く着いたみたいだ。

目を見開いて驚いている岩ちゃんなんて珍しい。

「久しぶりに三人揃ったし、一緒に飲みに行かない?と言うか行こう!」

そそくさと飲み物を片付けて二人の腕を引いて店を後にする。

そして当初の目的だった店に入って人数を告げる。

案内された座敷に上がり、ビールと何種類かのつまみを頼む。

ジョッキを持って「かんぱーい」と言えば、二人もグラスを合わせた。

ジョッキをあける頃には、昔の様にくだらない話にも花が咲いた。

「お手洗い~」

「相変わらずクソ川だな」

「うんこにしてって言ったじゃん!」

「二人共ここ飲食店だから」

そんなやりとりをして店のサンダルを履いてトイレを目指す。

数年前に戻った様な居心地の良さに思わず鼻歌が。

手を洗って座敷に戻ると、障子の手前で動きを止めた。

「及川に言わないのか?」

「言わないよ・・・」

「それで・・・・・・・・のか?」

「・・・・・・・」

声が小さくなっているのか、周りが騒がしいだけなのか。

二人の会話が聞こえなくなった。

俺に言わない?二人は俺に何かを隠してる?

それを掘り下げて良いのか分からない。

「俺に何を言わないの?」

障子をバンと開けて二人を見る。

ここで聞いて良いのかどうか考える間もなく行動に移した自分がアホだなと思った。

二人の顔が真剣なのも面白くない。

前からそうだ。

二人は何もかもを理解し合っている様に見えて、仲間外れにされてる気がしてたんだ。

それは自分だけが幼いからだと思っていたけど・・・下らない疎外感を持ち続けるのも疲れた。

大好きな二人だからこそ話して欲しかった。

すると岩ちゃんは溜息を付いて飲み物を飲み干し「後は二人で話せ」と出て行った。

俺はとりあえず座敷に上がり、と向き合う。

けれど先ほどまでの笑顔は無くなっていた。

「とおるくん・・・」

「・・・・・・」

「場所、変えて良いかな?」

俺は頷いて二人で店を出る。

訳が分からないまま無言で歩いた。

「あれ?」

気が付くと三年間通った青葉城西の前まで来ていた。

は門の所にある校名をそっと撫でた。

そしてくるっと後ろを向き、まっすぐに俺を見た。

「とおるくんが好きです」

「え?」

「あの頃・・・ここに通っている間に言えなかった言葉」

「だって岩ちゃんと」

「あの頃、はじめくん好きな子がいたの。けれどうちの学校の子に言い寄られてて。だから私と付き合う事にしたんだよ」

「はぁ!?」

「ちなみにあの頃好きだった子って言うのは今の彼女であるちゃん」

「うそ・・・」

「ほんと」

「何で俺に・・・」

「とおるくん、付き合ってる子、いたじゃない?」

「・・・・・・」

高校に入って確かにモテた。

の事を諦めようと思ってたから付き合って別れてを繰り返し・・・・・・てましたね、はい。

「これでスッキリした!」

「え?」

「ちゃんと言えたから」

「ああ、そういう意味か」

「やっと・・・・・・次に進めそうな気がする」

「それって次の恋って事?俺の気持ちは聞かないの?」

「うん。とおるくんと付き合いたいとは思った事が無いから」

「えぇー!?何で??」

「わからない」

「もしかして東京に彼氏候補いたりする?」

「んーどうかな」

「それならさ、来年、追いかけるから」

「来年?」

「バレーボールで東京のチームに入るの決まってるんだよね」

「そうなの?凄い!!」

「だからさ。東京行くから、身辺整理しておいてよね」

「え?でもっ」

「俺だって好きだったのにさ。まあ、俺も告白する勇気は無かったんだけど」

「だから、ちゃんとしたいから。待ってて?」

顔を歪ませた彼女を引っ張って腕の中に閉じ込める。

自分の体に回された腕に応える様に、彼女の頭にキスを落とした。


2017/03/15